平成29年9月定例県議会【3.避難対策について】

ア.武力攻撃事態に備えることについて

武力攻撃事態に備えるには、二つの壁があります。一つは、平和主義の壁であり、もう一つは、世論の壁です。

平和主義の壁について申しますと、現実を直視しようとせず、だから現実にコミットせず、現実の重みを背負おうとしない、単なるパフォーマンスとしての自己満足的な不毛の平和主義が、今なお我が国では、一定の影響力を持っていて、武力攻撃事態に備える壁になっています。その典型的な例が、長崎市国民保護計画であります。

国民保護計画とは、平成16年に有事法制関連のひとつとして成立した国民保護法に基づき、都道府県及び市町村に作成が求められたものです。国民保護法は、万一、我が国に対して武力攻撃や大規模なテロ等が発生した時、迅速に住民の避難を行うなど、国、地方公共団体、関係機関等が協力して、住民を守るための仕組みを制度化したものであり、都道府県及び市町村は、この法の成立後、国が示した基本指針や保護計画のモデルを参考にして、我が県、我が町の具体的な住民保護計画の作成に取り組むことになりました。その際、保護計画は、武力攻撃事態を上陸侵攻の場合、弾道ミサイルによる攻撃の場合等類型化して、それぞれの場合に、どう対処し措置するかを定めることになっています。そして、その武力攻撃事態には、核兵器による攻撃を受けた場合も想定されています。

ところが、こうした国民保護計画の作成は、戦争への備えをするものであり、「戦争の放棄」を定めた憲法のもとで、戦争に備える態勢をつくらせる訳にはいかないとの理由で、平和団体、平和主義者と見られている人達による強い反対の動きがありました。長崎市ではそうした動きが、市の取組みに直接及び、その結果、市が作成する国民保護計画から「核兵器による攻撃への対処」が、削除されました。こうした平和主義の壁は、偽りの平和主義以外の何ものでもありません。

危機管理のプロとして民間の立場から国民保護法の制定に協力された現参議院議員青山繁晴氏は、その必要性を、第二次世界大戦時における空襲による被害調査の分析を踏まえて明らかにしています。第二次大戦時、連合国から激しい空襲を受けたドイツと日本を比較した場合、投下された爆弾量に比しての犠牲者数は、圧倒的に日本の方が多いという事実を示し、その差は、あのナチス支配下のドイツといえども国民保護計画があったのに、日本には、それがなかったことに由るものであることを指摘して、青山氏は、戦後60年にして漸く不十分とはいえ我が国に国民保護法が成立し、国民保護計画が作られることになったことの意義を力説しています。

我々が、戦争を避け平和を求めるのは、私たちの生命、財産、生活を守るためです。そういう意味において、真の平和主義者は、国民保護法計画が、実効あるものになることを求めこそすれ、それに反対することはあり得ません。

そこでお尋ねです。国民保護法に基づき、全国の都道府県及び市町村が国民保護計画の作成に取り組んだことは、一歩前進であるとはいえ、国が示した基本指針や保護計画のモデルに沿って文書上の体裁を整えたにすぎない感もあり、実質、内実が伴った実効ある住民保護計画にしていくことが、次なる課題であります。そのためには、地方の現場からの発想で武力攻撃事態を想定して具体的に、真摯に住民保護の計画作成に取り組む必要があると考えます。ついては、本県の国民保護計画も、そういう観点から点検し、見直していく必要があると考えますが、ご所見をお伺いいたします。

武力攻撃事態に備えるには、もう一つ世論の壁があります。武力攻撃事態に備えて、避難行動の周知を図る、避難訓練を徹底する等の取組みは、かえって住民の不安をあおることになりはしないか、また本県の場合は、弾道ミサイルの脅威に備えようとすると、空母艦載機受け入れを容認した県や市の判断に対する批判が高まることになりはしないか等のことが、懸念されるところであります。しかし、世論がどうあろうとも住民保護のために、為すべきことは為していくことが政治、行政の責任であります。ついては、本県においては世論が如何にあろうとも、武力攻撃事態に対する備えについては、しっかり取り組まれるよう要望いたします。

イ.避難行動の周知について

国が定めた「国民の保護に関する基本指針」において、平素からの備えということで市町村は、武力攻撃事態に応じて複数の「避難実施要領」のパターンを作成しておくことが求められており、県は、その取組みに対して必要な助言を行うことになっています。

しかし、朝鮮半島有事の際、本県が直面するかもしれない武力攻撃事態として想定されるのは、岩国基地への弾道ミサイル攻撃であり、その被害が市民の及ぶという事態であります。こうした弾道ミサイル攻撃に対しては、「避難実施要領」のパターンをあらかじめ作成しておき、それに則って住民を避難誘導して被害を防ぐという対応は、時間的に不可能であります。

従って、弾道ミサイル攻撃から住民を守るための平素の備えとして徹底しておくべきことは、住民一人一人が、弾道ミサイルの脅威を警報等で知った時、身を守るために、どうすべきか的確に判断し行動できるよう、避難行動についての必要な知識や情報を、住民に周知しておくことであります。

そこでお尋ねです。万一弾道ミサイル攻撃があった場合、どう避難行動すべきかを住民に周知することについては、本県では特に岩国市において充分考慮されているものと思いますが、県も、岩国市に対して必要に応じて助言するというより、岩国市と一体となり、共同して取り組むべきであると考えます。

つきましては、このことにつきご所見をお伺いいたします。

 

ウ.避難施設の整備について

ミサイル攻撃からの避難のために最も望ましいのは、短時間のうちに避難できる地下施設等が、身近なところに整備されていることであります。

先般8月29日に北朝鮮が行なった弾道ミサイル発射の経緯を、時系列に整理しますと、発車時刻は5時58分で、Jアラートによる警報発令が6時2分、北海道の上空通過が6時5分から7分で、6時12分落下と見られています。

9月15日の弾道ミサイルは、発射時刻は午前6時57分でしたが、その後のJアラートや我が国の上空通過等の時間的経緯はほぼ同様で、時間差は1分以内です。

もし、8月29日に発射されたミサイルが北海道に着弾していたと仮定すれば、警報発令から着弾までの時間は、3分間程であり、住民は、Jアラートでミサイルの脅威を知って避難するための時間は2~3分間しかありません。Jアラート第一報では、「頑丈な建物や地下に避難してください」との指示メッセージが発されましたが、そういう事態に備えての避難施設が身近なところに整備されていなければ、咄嗟の場合、住民は、どう避難すればいいのか戸惑うであろうと思われます。

9月15日のミサイル発射に対して発令されたJアラートでは、避難についての指示メッセージの文言は、「建物の中、または地下に避難してください。」でした。8月29日のJアラートで避難先として例示されたのは、「頑丈な建物や地下」でしたが、9月15日のJアラートでは、それが「建物の中、または地下に」と改められ、「頑丈な」の文言がなくなっています。

これは、8月29日のJアラートでの避難指示の文言に対して、「頑丈な建物がない場合はどこに逃げればいいのか」「頑丈な建物を探そうと屋外に出てしまった」といった声が相次ぎ、それが見直されたからです。

こうしたことから明らかになって来るのは、我が国の国民保護計画は、ハード面の対策が伴っていないということであります。見直されるべきは、避難指示の文言が適切かどうか以上に、そういう点なのではないでしょうか。

そこでお尋ねです。岩国市のように在日米軍基地があって北朝鮮の弾道ミサイルの脅威が想定されるところは、ハード面からの避難対策もしっかりしたものにする必要があります。特に、基地周辺の住宅民家、学校施設、大規模集客施設等において、地下への避難が素早くできるよう施設整備が図られるべきであると考えます。ついては、そうした避難施設の整備が早急に進むよう、県は岩国市とともに、国に対して財源措置を含めた支援の施策を強く要望すべきであると考えますが、ご所見をお伺いいたします。