平成30年6月定例県議会【5.介護現場の声、創意工夫を生かす施策の推進について】

「高齢者が輝く地域づくりの推進について」
(5)介護現場の声、創意工夫を生かす施策の推進について

(1)特別養護老人ホームの整備方針
県は、介護保険施設については国の方針に沿って、ユニット型個室の整備を促進することとしており、特別養護老人ホーム(以下、特養と略称)においても新規整備や増築に当たっては、ユニット型個室とすることを原則とし、4人部屋等の多床室の整備は、補助対象にしないこととしております。
こうした国・県の方針により、従来の4人部屋等の多床室は、順次ユニット型個室への転換が進んでおり、平成29年度末で本県の特養は、全定員数の40.4%がユニット型個室となっております。
ユニット型個室は、4人部屋等の多床室と較べて、入所者個々人の尊厳が保持され、一人ひとりの生活や暮らし方が尊重されるということで、進化した特養の在り方であると言えます。ただ、特養等の介護保険施設の運営に携わっている方々の声を聴きますと、全てをユニット型個室にするのがいいのかは疑問であります。
多床室も必要だとの声には、主に4つの理由があります。その1は、特養利用者の費用負担が、ユニット型個室は多床室に比べて高額になるからです。厚労省が示している特養利用者の標準的な負担月額は、ユニット型個室は約12万8千円、多床室は約9万2千円で3万6千円の差があります。
山口市内に地域住民から長年信頼感謝されている特養がありますが、多床室型施設ですので施設長に、「施設も相当年数を経ているようですが、ユニット型個室へ建て替えられるのですか。」と聞きましたら、「それは、しない。そうしたら、この地域の高齢者は、国民年金で暮らしている人が多く、そういう人たちがこの施設を利用できなくなる。」と答えられました。
その2は、多床室のほうが利用者相互の触れ合いや刺激があって、その方が寂しくなくて落ち着く人もいるし、個室の場合よりも認知症等の進行が抑制されるケースもあること。
その3は安全面からで、多床室だと、誰かがベッドから落ちる等、何かあったとき同室の者が気づいて速やかな連絡対応となるが、個室だとナースコール等があってもそれを使えず、見過ごされてしまう場合があること。
その4は人手の面で、ユニット型個室は、多床室に比べて人員の配置を厚くする必要があり、現状でも介護人材が不足している中で、その確保に苦労すると思われること。
私は、こうした介護現場からの声には説得力があり、本県の特養の中長期的な整備を展望する上においては、真摯に受け止め考慮すべきと考えます。
そこでお尋ねです。私は、ユニット型個室は、より進化した特養の在り方として認めるものですが、多床室も利用者や家族が望めば選択できるよう、将来にわたって一定の定員数は確保されるべきものと考えます。ついては、特養の新設や建て替え等の新規整備への補助は、ユニット型個室だけに限らず、多床室も対象にする方向で現行の方針を見直すべきだと考えますが、ご所見をお伺いいたします。
(2) 仕事や役割がある介護の実現
高齢者が、認知症で要介護状態になったとしても生産的活動が出来て、必要な存在として認められ、楽しく共生していくことができる介護福祉を目指す取組みが、本県から全国に発信されています。
山口市仁保に、はるひ苑という定員18名の認知症対応型のグループホームがあります。今年の2月、NHKがテレビのニュース番組で県内ローカル及び全国放送、さらにはBSの海外放送で放映しましたので、見られた方もおられるかもしれませんが、この苑に入居された重度の認知症の方が、仕事をするようになって認知症の症状が改善され、表情も明るく笑顔が見られるようになり、生活が生き生きしたものに変わっていく様子が紹介されています。
この放送は録画再生を、インターネットで見ることが出来ますので、関心ある方は是非見ていただきたいと思いますが、その中でこのグループホームの代表である岡屋淳さんは、「環境が整えば、認知症の人でも充分に働くことが出来る。」、「少しの配慮をすれば、認知症であろうがいろんなことが出来る。」と語っておられます。そして、そうした視点から彼は、要介護者を、ただ単に介護を受ける存在としてではなく、介護ケアがあればいろんな仕事ができ、役割を果たせる存在として見て、その可能性を実現していく介護福祉に取り組んでいます。NHKが、「仕事で認知症の改善を」というタイトルでローカルのみならず全国放送までしたのは、はるひ苑で実現されていることに、我が国の介護福祉の将来に向けた新たな進化の方向を見出したからではないでしょうか。
私が、岡屋さんの考え方で素晴らしいと思うのは、認知症の方に仕事をしてもらうことを、症状の改善のためというより、認知症の方も、そうでない人たちと同じく人として社会の中で必要とされ、その能力を生かし、豊かな人生を送ることが出来るようにしていくためだとしておられることです。はるひ苑は、フェイスブックで、はるひ苑紹介のNHK放送についての補足説明で、そうした考えを明らかにしております。
ただ、はるひ苑の新たな介護福祉の取り組みは、全国的に注目されていますが、いまだ孤軍奮闘の感があって大きく広がりを見るまでには至っておりません。私は、はるひ苑の取り組みは、介護福祉の新たな進化の方向であると共に、介護費用抑制の効果も期待され、介護保険制度の持続可能性という観点からも望ましい方向であり、推進されるべき取組みであると見ております。厚労省は、現在9兆円の介護費用が、団塊の世代が後期高齢者になる2025年には20兆円にまで増大するとの見通しを示しており、介護費用の伸びを、今後どう抑制していくかは大きな課題であります。
そこでお尋ねです。認知症の要介護者も、仕事や役割があり必要な存在であると認められることが、生きる力となり介護状態の改善につながります。これからの介護福祉は、こうした視点を中心に据えてその在り方を抜本的に見直し、新たな介護福祉の仕組みを構築していかなければなりません。障害福祉施策においては、障害者の就労支援制度がありますが、私は、介護福祉の施策においても同様に、要介護者それぞれが適した仕事をし、役割を果たすことを支援する仕組みが制度化されていいと考えます。
つきましては、県は、はるひ苑の取組等を支援しつつ、相携えて課題の解決を図ってその広がりを推進し、高齢者が要介護状態になっても仕事をし、役割を果たして輝くことが出来る地域社会の形成を目指すべきだと考えますが、ご所見をお伺いいたします。

(3)有償ボランティアの活用
今日、介護施設はサービス提供に必要な人員の確保に苦労しており、人手不足の解消が大きな課題になっております。そして、こうした事態への対応として、有償ボランティアの活用が容易にできる環境の整備を図ってほしいという声があります。
介護の仕事は、介護の専門職でなければできない介護そのものの業務と、そうした介護の周辺の業務とに大別することが出来ます。食事や入浴の介助等は前者で、洗濯やベッドのシーツ交換などは後者であります。こうした介護にかかわる業務のうち、介護の周辺の業務は、特に介護の専門職ではなくても一般の人が出来ることが多々あり、而も介護の仕事において大きな割合を占めています。従って、そこのところを、有償ボランティアという形で一般の人たちにやっていただくことが容易にできるようになれば、介護施設の人手不足の解消につながることは確かだと思われます。
では、なぜ有償ボランティアの活用なのでしょうか。このことに関し、数点触れておきたいと思います。
まず、第一点は、なぜ有償ボランティアで、無償ボランティアではないのかということです。その理由はハッキリしていまして、責任をもってやっていただくためには有償であることが望ましいのは明らかです。
第二点は、有償であればシルバー人材センターや障害者就労施設等の活用その他様々なやり方が考えられるのではないかということです。このことに関しては、それぞれの施設の運営方針が尊重されることは当然ですが、介護に関する業務に特化した有償ボランティアの仕組みが確立され、適宜必要に応じて有償ボランティアが活用できるようになれば助かる施設は多いのではないでしょうか。
第三点は、介護施設も高齢者も、双方共にいいという関係が築けるということです。有償ボランティアであれば、わずかでも収入があって助かり、また介護福祉の仕事に携わることに生きがいを感じて、協力参画しようと思っている元気な高齢者は、沢山おられます。
それでは、介護福祉業務に特化した有償ボランティアの仕組みとは、具体的にどういうものなのでしょうか。考えられるのは、市町単位で社会福祉協議会が窓口になり、そこに登録された有償ボランティアのメンバーが、施設からの要請に応じて協力するというイメージです。そういう仕組みが、県下の全ての市町に設けられるよう、県が支援推進することが期待されます。
そこでお尋ねです。介護施設の人手不足の解消に向けて、有償ボランティアの活用が容易にできる環境の整備が望まれます。つきましては、県は市町と連携してそのことに取り組むべきだと考えますが、ご所見をお伺いいたします。