平成21年2月定例県議会 (1)福祉医療制度の見直しについて

(1)福祉医療制度の見直しについて

質問に先立ち、今議会に提案されております平成二十一年度県予算をどう見ているか、まず申し上げます。
来年度予算は、これまで八年間続いたマイナス予算を改め、対前年比○・六%とはいえ、プラスの積極予算を組まれたことを高く評価します。
アメリカ発金融危機で世界同時不況となり、経済活動が、あらゆる面、あらゆる地域で収縮に向かい、それがまた景気の後退を招くという悪循環に陥っている今日、県のプラス予算は、それを断ち切り、経済成長、景気回復に向かうよう、本県経済を後押しする役割を果たし、心理的な面からもプラス効果があるものと評価しております。
福祉医療制度に一部負担を導入した予算になっている点は、支持できませんが、予算全体としては、緊急事態に対応し、なすべきことをなしていくという意思が貫かれていると見ております。
それでは、通告に従い質問を行います。
最初は、福祉医療制度の見直しについてでございます。
私は、福祉医療制度の見直しに取り組むことに、反対するものではありません。しかし、財源不足を主たる理由に、当事者、関係者の了解、納得を欠いたまま一方的にこの制度を見直して、一部負担金を導入実施しようとすることには反対であります。
福祉医療制度は、重度心身障害者と乳幼児を対象にした医療費助成が、昭和四十八年から、母子家庭を対象にした医療費助成が、昭和五十三年からスタートし、今日に至っております。三十余年続いてきているこの制度は、対象者になっている人たちにとっては、生活設計の前提になっているものであり、一部負担が図られることは、実質的な増税であります。負担が生じたからと言って、医療をやめることはできないからであります。
この福祉医療制度の対象者が最も多いのは、重度心身障害者で約四万二千百人ですが、この方々が、制度見直しにより負担することになる医療費は、年間で平均約一万二千円と推計されます。
このことをどう受けとめるかは、さまざまあろうと思いますが、本県が平成十七年から県民一人当たり年間五百円の森林税を導入した際、入念に県民の理解を得るための努力を行い、そのために必要と思われる手順、手続を慎重に踏んだことと比べると、余りにも違い過ぎます。
公共性についての考察で著名な現代思想家ハーバマスは、公開された討論を通して形成された公論――公の論ということでありますが、公開をされた討論を通して形成された公論が、市民的公共性を獲得すると述べておりますが、このたびの福祉医療制度の見直しは、そういった意味での公論形成の議論のプロセスが欠けているため、県の公共政策としての正当性をいまだ獲得し得ていないと断ぜざるを得ません。
私は、健常者も障害者も、同じ人として分け隔てなく等しく生きていくノーマライゼーションの考え方からして、障害者も可能な応分の負担をしていくことに反対するものではありません。また、自治体が、財政規律を保持するために一定の負担を求めようとすることも理解できます。
ただ、該当者の医療費を無料にしてきた福祉医療制度を、本人一部負担の制度に見直すことは、公共政策としての本制度のあり方の重要な変更になることから、十分な政策論議と、当事者、関係者の了解、納得を得る努力のプロセスを経る必要があるのではないかと申し上げているのであります。
県は、福祉医療制度を、一部本人負担の制度に見直すことについて、まず、県下の市町の担当者と昨年の十月以降、数回協議を行っております。そして、本人負担の限度を、通院の場合は月千円、入院の場合は月二千円とし、支払い方式は、病院の窓口で、一たんは医療費を、医療保険の自己負担分を払ってもらい、後で限度額を超えた分を助成する償還払い方式に見直す原案を固めました。その方針が、該当者の関係団体に伝えられたのは、その後でして、昨年十二月になってからのことです。
この原案は、県予算編成の最終段階において、重度心身障害者の場合は、通院の月限度額を千円から五百円に減額し、三歳未満児の医療費の無料化は継続する。そして、支払い方式は、償還払い方式を撤回して、すべて現行の現物給付方式を維持するという内容に修正されました。
その背景には、障害者団体、腎友会、母子寡婦福祉連合会等関係団体の強い要望活動があり、県議会各会派、各党からも、福祉医療制度の見直しには、慎重を期すべき旨の意向が伝えられていたことをそんたくしての知事判断があったものと思われます。
ただ問題なのは、弱い立場にある県民の命と暮らしを守る重要施策としての福祉医療制度が、今回のようなプロセスで簡単に変えられていいのかということであります。私は、有識者と関係者による諮問委員会を設けて、福祉医療制度の見直しを諮問し、そこでの徹底した政策論議と関係者へのヒアリングを経た上での答申を受けて、県が最終判断すべきであったと考えます。
私が聞く声は、このたび、一たん一部負担を受け入れてしまったら、後はまた、県は、財政事情を理由に、負担額を随時引き上げていくのではないかという不安の声であります。こういう不安を持たれるのも、福祉医療制度を一部本人負担の制度に変更するに当たって、今後、この制度をどういう原則的な考え方に立って維持していくのかが明確になっていないからであります。
また、複数の病院、診療科へ通院する場合、一月に支払う医療費一部負担金の総額に上限設定を望む声があります。通院は、重度心身障害者は月五百円、ひとり親家庭と三歳以上の幼児は月千円の負担ということですが、それは、受診する病院や診療科ごとでして、それが複数になれば医療費負担額は、その数を掛けた額になるからであります。私は、このたびの見直しで、制度対象者の医療費負担額は実際どうなるのか、実情を把握した上で、こうした声にもこたえる対応策を検討すべきであると考えます。
県は、県下の市町が独自に実施する制度の拡充措置等は妨げないとして、市町が無料の福祉医療制度を継続したければどうぞというスタンスでありますが、県と市町が一体となって実現し、守り育ててきた福祉医療制度において、県と市町の足並みがそろわないようになることは決して望ましいことではありません。
県は、大幅な財源不足が見込まれる中、福祉医療制度も聖域視しないで見直し、一部負担を導入しようと取り組んだわけでありますが、先ほども述べましたように、その見直しは、いまだ公共政策としての正当性を獲得するに足る公論を形成するに至っておりません。しかし、それは、もう少しの努力で可能なところまで来ているように思われます。今、必要なことは、見直しの実施を急ぐことではなく、見直しの公論形成に向けて議論を尽くすことであります。
そこで、お伺いいたします。福祉医療制度を見直して、一部本人負担の制度に変更することは、当面凍結し、市町、有識者、関係者含めての合意形成に向けて議論を尽くすべきと考えますが、御所見をお伺いいたします。

【回答】◎知事(二井関成君)
合志議員の御質問にお答えいたします。
まず、福祉医療制度の見直しについてであります。
既に多くの都道府県で一部負担金が導入をされております中、本県でも、市町との検討協議会を設置をし、数年前から一部負担金の導入等について検討を重ねてまいりましたが、子育て支援や低所得者対策の観点から、厳しい財政状況にもかかわらず、今日まで、県民の皆さんからいただいている県税収入や赤字地方債等を投入をして、無料化や現物給付方式を続け、何とか踏みとどまってまいりました。
しかしながら、これまでも御答弁申し上げておりますように、今後も大幅な財源不足が予想される一方、高齢化の進行等により、福祉医療制度の財政負担の増大が見込まれます中、さきの十二月議会におきまして、私としては、この制度について、一部負担金の導入や償還払い方式への移行などについて検討していることを表明をさせていただきました。
その後も、会議等を通じて、実施主体である市町の意見をお聞きをするとともに、私自身、県身体障害者団体連合会など当事者団体の代表の方々ともお会いをし、また、県議会の各会派や市議会、医療・福祉関係団体などから多くの御意見や御要望をいただきました。
私としては、これらの御意見や御要望を重く受けとめ、三歳未満児の受診実態や重度障害者の通院状況等について、さらに検討を加え、熟慮を重ねた結果、一定の配慮をすることとし、一部負担金については中国地方の中でも最も低い負担にとどめ、現物給付方式も継続することにいたしました。
私は、かつてない厳しい財政状況にあり、今後も悪化が懸念される中、この制度を持続可能な形で引き継いでいくためには、先送りすべきではなく、今、この制度を見直さなければならない、そのように考えまして、改めて、給付と負担のあり方についても検討し、医療費が無料となっている生活保護世帯あるいは原則三割となっている世帯とのバランス等も総合的にしんしゃくをし、一部負担金の導入に踏み切らざるを得ないと決断をしたところであり、また、そうしておくことが私の責務であると考えております。
私は、この福祉医療制度につきましては、多くの関係団体からの御要望等をお聞きした上で、苦渋の決断として、見直すことといたしたものであります。お示しのように、したがいまして、改めて関係者の御意見をお伺いすることは考えておりませんので、御理解をいただくようにお願いいたします。
次に、山口県振興財団についてであります。
振興財団が保有している中国電力株式につきましては、お示しがありましたように、本県の長い歴史の中で積み上げられてきた県民の貴重な財産であります。これまで、財団による適切な運用や保全管理のもと、配当金を活用した県への資金的協力が行われてきたところであります。
また、この資金は、県財政にとりまして、極めて安定的な歳入であるとともに、これまで、県庁舎の建設や山口きらら博の開催など、その時々の全県的な大規模事業の財源として、積極的な活用も図ってきたところであり、明年度におきましても、国体・全国障害者スポーツ大会関連事業の所要一般財源に充当することにいたしております。
そこで、今後の振興財団資金の活用についてでありますが、これにつきましても、その歴史的な経緯や県民の貴重な財産であるということは、当然、考えていかなければなりません。その上に立って、これから、また「住み良さ日本一の元気県づくり」を推進をしていくわけですから、その県づくりが確実に推進できるよう、それに資するような形にさらになるように、さらなる有効活用方法についても、検討はしなければならないというふうに考えております。
そのほかの御質問につきましては、関係参与員よりお答えいたします。

2009年3月1日