平成21年9月定例県議会 (1)消防の広域化・土砂災害の検証と対策

(1)消防の広域化・土砂災害の検証と対策

新政クラブの合志です。まずもって、さきの七月二十一日豪雨災害で、お亡くなりになられた方々の御冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様にお見舞いを申し上げます。そして、被災地の一日も早い復興と、安心・安全の県づくりに微力を尽くすことを誓うものであります。
それでは、通告に従い一般質問を行います。
ずっずっと堆積した土砂が動いている。これに誘発されて、いつまた土石流が発生するかわからない。土石流に襲われたら命はないだろう。しかし、引き返すわけにはいかない。現地確認の任務を果たすために、行かなければならない。五人の消防隊員は、命の危険に直面する中、土石流が流れた後に堆積した土砂のぬかるみに、時には腰までつかりながら、そうした思いで、孤立した村、稔畑に徒歩で向かいました。
七月二十一日、防府、山口の双方にかかる山稜の中腹、標高二百メートルの高地にある山口市小鯖の稔畑地区も、かつてない甚大な自然災害に見舞われました。
記録的な猛烈な大雨のため、至るところで山地崩落、土砂崩れ、土石流が生じ、幾つもの家屋が土石流に見舞われ、つい一月前、ことしの六月に竣工したばかりの基盤整備した水田の多くに土砂が流れ込みました。そして、この地区に至る三本の幹線道路はすべて通行不能となり、地区内の道路も寸断され、約七十戸ある稔畑は孤立してしまいました。
こうした稔畑地区の現況を確認する必要があるということで、山口市消防本部は、消防隊員を派遣、最初は自動車で向かったが、この地区に入るための三本の道路はことごとく不通、ついに隊員は、歩いて稔畑に向かうことを決断しました。
冒頭に紹介したのは、この消防隊員たちが命がけで任務遂行に立ち向かったさまであります。
稔畑の集落にたどり着いた消防隊員は、直ちにヘリによる住民の避難救出が必要と判断、その旨を消防本部に伝え、救援ヘリの派遣を要請しました。そして、各戸を安否確認に回り、救援ヘリのヘリポートの確保、住民の集結地誘導に取り組みました。
県は、山口市からの要請を受け、大規模特殊災害時における広域航空消防応援実施要綱に基づいて、ヘリコプター応援を近隣の県に要請、これにより広島市消防航空隊と福岡市消防航空隊及び愛媛県消防防災航空隊が来援し、七月二十一日、二十二日の二日間かけて、延べ九十四名の人員救出を完了しました。
かつてないすさまじい自然災害に見舞われた稔畑地区は、おかげで幸いなことに人の犠牲は一人も生じませんでした。そして今、復興に立ち向かっています。
火災発生時だけではなく、自然災害のときも消防の果たす役割は大きく、七月二十一日の豪雨災害時には、この事例と同じような消防関係者の奮闘が、各地であったであろうことを思います。
また、消防の関係者のみならず、同時に大きな危険と隣り合わせの中で、二次災害の発生防止、住民の安全確保、道路復旧等に取り組まれたさまざまな防災関係者、土木工事関係者のことを思います。
そして、これらのすべての方々に感謝をささげ、敬意を表しつつ、このたびは、災害発生時の初動において、人命を守る大事な役割を担う消防の広域化について、まずお伺いいたします。
なお、御案内のように、消防の広域化につきましては、六月県議会で国井議員さんが、そして昨日は、同会派の新藤議員さんが、大事なポイントを踏まえての質問をされたところでありまして、重なるところもございますが、私なりの視点で質問をすることをお許しいただきたいと思います。
さて、消防組織は、住民自治の消防組織としての消防団と、行政機関としての消防組織である常備消防の二通りあります。そして、消防は市町村の事務とされています。
しかし、そうとはいえ、行政機関としての消防組織である常備消防のあり方については、消防の目的を果たしていくために、どういう形が最も望ましいのかの議論に、県も、県民生活の安心、安全を確保していく責任を有する当事者として加わり、市町と共同してその実現に取り組んでいくべきと考えます。
御案内のように、国の消防広域化の方針を受けて、県は平成二十年五月に「県内四本部からスタートし、将来的には広域化の効果が最も大きい一本部の枠組みを目指す」とする「山口県消防広域化推進計画」を策定しました。
しかし、その後これに対して、県市長会から異議、異論が出まして、県市長会は、現行の十三消防本部体制を七本部体制とする対案を本年三月に県へ提出しました。
このため、県が担うべき役割ということで取りまとめた本県の消防広域化推進計画の内容と、消防事務として担う県下の市の市長会の消防広域化案が、相異なるという事態となり、それは解消されることないまま現在も続いております。
そうした中、ことしの七月大雨災害があり、これへの対応経緯から知事は、「今回の災害状況を踏まえて、今後の広域消防のあり方についても、いま一度検討を加える必要があると思っております」「今、市町で七消防本部案で検討されておりますが、果たして、今回のようなこれほど大きな災害が起きたときに、七消防本部でいいのかどうかを、ぜひ、関係市町の中で検討してもらいたいと思っています」「一番いい形としますと、やはり、県警本部と同じような形で、県が一つになっている形がいいのではないかと思います」との見解を、記者会見において明らかにされております。
そこで、お伺いいたします。知事は、消防の広域化は、特に今回の災害を踏まえて、一県一消防体制が一番いい形であると発言しておられますが、ことし本県で、現行の消防体制の圏域を越えて消防の広域連携が行われた事故災害としては、六月の秋芳プラザホテル中毒事故や、七月の大雨災害があります。これらの事故災害の場合、本県が一消防体制であったとしたら、どういう点でよりすぐれた対応が可能であったとお考えなのかお伺いいたします。
次に、県は、本県消防広域化の最も望ましい形としては、一消防体制がいいとの考えを有しながらも、その合意形成には相当の期間が必要と見込み、それを待っていては、平成二十四年度までに消防広域化を実現するとの国の方針に沿うのは困難との判断から、市町の意向を踏まえた現実的な枠組みとして、「四本部でスタートし、将来一本部を目指す」との計画をまとめたものと思われます。
しかし、県一消防体制がいいとの結論が明確なのであれば、消防力の強化、向上は、即、県民の命と暮らしの安全・安心に直結するものであることから、その最も望ましい形の実現に向けて、合意形成に全力を尽くすべきなのではないでしょうか。
たとえ、その合意形成に時間を要し、本県の消防広域化が、国が求める計画年度よりおくれたとしても、それを意に介することは全くなく、しっかり腰を据えて取り組むべきと考えます。
それは、国の、このたびの消防広域化推進施策は、ただ、そのメリットを示し推進を都道府県に促すだけで、実現すべき具体像と方法論について明確な政策を欠いているため、国の計画どおり、全国で消防広域化が進むことはなかろうと思われるからであります。
また、四本部体制整備のための投資と、その先、近い将来に予想される一本部体制整備のための投資という二重投資の無駄、それに伴う財政負担の無駄は、避けなければならないと考えます。
そこで、お尋ねいたします。まず、既に策定した本県の消防広域化推進計画は、枠組みについては、一消防体制とする内容に変更したほうが望ましいと考えますが、御所見をお伺いいたします。
そして、そうだとすれば、一県一消防体制ということで、時間はかかっても県下の市町との合意形成を図ることが先決となりますが、そのことに向けてどう取り組んでいかれるお考えなのかお伺いいたします。
さて、消防広域化の議論の順序は、まず県一消防体制の大方針を確定した後、個々の具体的課題をどう解決していくかの議論に移るということであろうと思いますが、県一消防体制のあり方も、大別して二通り考えられます。一つは、消防本部と各消防署というあり方、もう一つは、消防中央本部と各方面本部、そして各消防署というあり方であります。その、いずれが望ましいかの議論も必要と思います。
広域化の議論のプロセスで萩市試案ということで、現状の消防本部が、方面消防本部として管轄区域の本部機能は有するが、大規模災害発生時など広域的な対応が必要な場合、方面消防本部との調整や関係機関との連携を行うものとして中央消防本部があるとする、緩やかな一本部制が提案されましたが、これに対し県は、この案では消防体制の一体性が保持されず、消防力の強化につながらない。また、国の財政支援の対象にならない等の理由から、広域化案としては適当でないとの回答をされました。
私は、萩市試案に対する県の見解を支持するものでありますが、消防の命である初動が、的確かつ迅速に行われるための通信指令業務管轄の適正規模は、どうなのか、県一でいいのか、幾つかの区域に分けたほうがいいのか、消防通信指令業務従事者の意見をよく踏まえて、しっかり検討する必要があると思っています。その上で、県本部統括のもと方面本部を置くかどうか、それは必要ないかの議論をして結論を出すことにすればいいと考えます。
そこで、お尋ねいたします。一県一消防体制が実現した場合、消防の命である通信指令業務の的確性、迅速性の確保についてどうお考えなのか、御所見をお伺いいたします。
ところで、改めて申すまでもなく、さきの七月豪雨災害の際、消防ヘリ「きらら」を有する本県の消防航空隊に加え、近隣県から四消防航空隊が来援し、救援活動に従事したことからもわかるように、今日、消防において航空消防のウエートが増してきています。
消防組織法は、「市町村の消防の支援のため、都道府県は航空消防隊を設けるものとする」と定め、航空消防隊は、都道府県が保有するものの、その役割は市町村消防の支援という補完的なものであります。
しかし、消防力強化の次なるステップは、消防本部による航空消防の一体的運用を図っていくということなのではないでしょうか。
消防力の強化が、そういう方向に進んでいくのであれば、航空消防を市町村消防で装備することは、政令市以外は困難と思われますので、当然に都道府県消防というものが考慮されるようになると予想されます。
一方、消防の生命線というべき消防救急無線は、平成二十八年五月までに、現在のアナログ方式からデジタル方式に移行することとされており、そのデジタル化に際し消防庁は、県を一ブロックとして整備計画を策定するよう求めています。
さらに、注目すべきは、全国四十七都道府県中、十二県が一県一消防体制とする広域化推進計画を策定していることであります。
こうしたことから、現在、国が推進している消防広域化を、時代の進展に即応したものにするのであれば、最大の課題は、長い歴史を有する市町村消防の原則を見直し、常備消防においては都道府県消防を選択できる消防制度にしていくことであると考えます。
そこで、お尋ねいたします。消防力の強化、向上につながる時代即応の消防広域化を実現するためには、常備消防においては、市町村消防の原則を見直して、都道府県消防も可能なように、消防組織法を改正すべきと考えますが、御所見をお伺いいたします。
次に、土砂災害の検証と対策について質問いたします。
七・二一豪雨災害は、床上、床下合わせて四千棟を超える浸水被害をもたらし、十七名ものとうとい人命が犠牲となりましたが、そのうち十四名は土砂災害によるものであり、今なお災害のつめ跡を残しているのも土砂災害であります。
平成十一年六月二十九日、広島県を襲った豪雨災害は、死者三十一名を出し、そのうち二十四名は土砂災害によるものでした。
この広島災害の惨事を契機として、国は、総合的な土砂災害対策に本格的に取り組み、翌平成十二年に国会で土砂災害防止法が成立し、平成十三年四月一日より施行され、今日に至っております。
土砂災害防止法は、基礎調査に基づく警戒区域の指定を都道府県の事務としております。都道府県は、基礎調査を実施して、急傾斜地の崩落、土石流、地すべりなどの土砂災害のおそれがある区域を土砂災害警戒区域に指定し、さらに、その警戒区域の中で、建築物に損壊を生じ、住民に著しい危害が生じるおそれがある区域を、土砂災害特別警戒区域に指定します。
土砂災害警戒区域が指定されたら、市町村は地域防災計画に記載し、土砂災害に対する警戒避難体制に関する事項を定め、土砂災害ハザードマップを作成配布して、その危険を住民に周知することとされております。
また、特別警戒区域においては、住宅宅地分譲や、社会福祉施設等の開発行為は許可制となり、建築物の構造規制や移転勧告を行うことができるようになっています。
本県の、この土砂災害防止法に基づく調査、指定の進捗状況は、県下二十市町のうち、長門市、岩国市など七市において土砂災害警戒区域を指定しており、四市町が調査中、九市町が、これから調査着手予定という状況であります。
さきの八月臨時県議会で、柳橋土木建築部長は、「土砂災害防止法に基づく土砂災害警戒区域の指定の進捗率は、約四割です。今後は平成二十九年度までに全市町で区域指定することとしており、それまでに基礎調査を終える予定ですが、できる限り前倒ししてまいります」と答弁しておられます。
なお、今議会、松永議員の代表質問で、知事答弁におきまして、平成二十四年度までに土砂災害ハザードマップを、県下全市町作成完了するようにしたいということでありますから、前倒しというのは、その二十四年度までに、この警戒区域の指定をやってしまうという方針が示されたものと理解しているところであります。
私は、そうした方針で、県が土砂災害防止法に基づく基礎調査、警戒区域指定の作業を加速化していくことは評価するものでありますが、そのことにまさるとも劣らず大事なことは、警戒区域指定の精度を上げていくことであると思っております。
土砂災害防止法が、その目的を果たしていくためには、警戒区域の指定が的確であることが求められます。そして、そのためには、山地崩落、土石流発生の原因、メカニズムを、実例に基づいて検証究明し、そのことを踏まえて、警戒区域指定の基準が、より一層実態に即した適正、妥当なものになるよう、常に点検、見直しされていく必要があります。
思うに、このたびの七・二一豪雨による土砂災害は、そういう意味での貴重な事例を提供しています。
犠牲になられた十四名の方々の死を無駄にしないためにも、本県は、このたびの土砂災害の調査に遺漏なきを期して取り組み、その調査結果を、山口県のみならず全国の土砂災害被害防止に役立てていく責務があると考えます。
そういう観点から、数点お伺いいたします。
まず第一に、七・二一豪雨による土砂災害の調査及びそのことに基づく防災対策について、基本方針をお伺いいたします。

第二に、このたびの豪雨により土砂災害が発生した、防府市、山口市においては、計九百四十五カ所の警戒区域指定が行われておりますが、土石流が発生した六十六カ所は、すべて警戒区域指定されているところなのか、指定以外のところでも発生しているのか、そうだとすれば指定外は何カ所か、また、指定区域外で土砂災害が生じたことをどう受けとめておられるのか、お尋ねいたします。
第三に、土砂災害の発生原因とメカニズムの検証究明は、土砂災害が起こったことの究明だけではなく、警戒区域に指定されていながら土砂災害が起こらなかったところについても、その起こらなかったことの検証究明を行うことも、あわせ必要と考えますが、御所見をお伺いいたします。
第四に、山崩れや土石流発生の原因は、物理的、力学的な面と、地質や植生などの応用理学的生態的な面との両面があると思われます。よって、原因究明の調査メンバーには、地質や山林植生などの専門家が必要と思いますが、どうなっているのでしょうか。
また、土砂災害防止法に基づく警戒区域指定は、基本的に力学的構造の面からの基準に基づいて行われているようですが、生態的側面も含めての調査に基づく指定であってこそ、実効性のあるものになると思われます。よって、土砂災害警戒区域指定のための調査にも、同様に地質や植生の専門家を加える必要があると思いますが、御所見をお伺いいたします。
さて、このたびの土砂災害について、地質的特徴をモデル化し解析した地質専門家によるレポートを読みましたが、山口、防府の土石流発生範囲が、ほぼ花崗岩分布地域におさまることを指摘し、花崗岩の山では、その岩盤の上にある花崗岩が風化してできた真砂土が、その上の表土が薄い場合は雨によって崩れやすく、二十度ないし二十五度の緩やかな勾配の場合も、雨で山崩れが起こり、それが発端となって土石流が発生する可能性があることを推定しています。
そこで、第五のお尋ねです。急傾斜地ということで指定される警戒区域は、傾斜度が三十度以上という基準になっています。しかし、このたびの土砂災害では、それ以下の傾斜度のところにおいてもがけ崩れが生じていないかお尋ねいたします。もし、そういうことがあれば、特に、花崗岩の山においては、警戒区域の基準を見直す参考事例になると思いますが、御所見をお伺いいたします。
第六に、山崩れや土石流が多発したのは、松くい虫などが原因として松がだめになり、山が弱くなったからだという指摘があります。また、先ほど紹介したレポートは、松が枯れた後、シダ類が繁茂している山は、灌木類が育つことが抑圧されて表土層の形成が進まないばかりか、低木の根による表層の緊縛がなされないため、雨による崩落が生じやすいことを指摘しています。
こうした指摘が当を得ているとすれば、土砂災害対策として、砂防ダム、治山ダムをつくるということのみならず、山それ自体を、樹木の植生等によって強くしていく取り組みが必要と思われますが、そうした対策について御所見をお伺いいたします。

三番目に、防災情報センターの設置について質問いたします。
防災情報は、個別的、具体的であって役に立つものであり、そういう防災情報を提供する機関が必要であるとの趣旨で、防災情報センターの設置について質問いたします。
さて、自然災害を防止するために、必要なハード面の整備を行うことは大事なことです。しかし、自然災害を完全になくしてしまうことはできません。どんなに膨大な予算を投入しても、それは不可能なことです。
そこで、次に大事なことは、自然災害が起こったとき、どういう被害軽減、回避の備えがあるかということであります。常日ごろから、自然災害が発生したとき、人命を守り、被害を軽減するための対応策を考え、準備しておくことが重要です。
そして、その備えのために不可欠なのが、自分のところの自然災害の危険がどういものであり、どう対応したらいいのか、そういう意味での防災情報を、個別的、具体的に把握しておくことであります。
自然災害の中でも、特にそのことが求められるのが土砂災害であります。そこで、まず、土砂災害の防災情報提供の現状を見ておきたいと思います。
土砂災害の場合、警戒情報は、県と気象台が共同して、大雨による土砂災害発生の危険度を降雨に基づいて判断し、市町単位で発表し、該当市町に通報します。
危険度は、レベル一からレベル四までの四段階に区分されており、レベル一は、土砂災害の発生に注意。レベル二は、土砂災害の発生に警戒。レベル三は、今後二時間以内に土砂災害が集中的に発生する危険性が高い。レベル四は、土砂災害が集中的に発生のおそれありとされており、レベル三が土砂災害警戒情報発表の目安とされております。
自分のところの土砂災害の危険度レベルは、県庁ホームページで山口県土砂災害警戒情報システムを検索すれば、見ることができます。そこでは、県内を五キロメートルメッシュ二百九十三区画に区切り、そのメッシュごとに土砂災害の危険度四段階を色分けして図示しています。
土砂災害警戒の通報を受けた市町は、この五キロメートルメッシュによる自分の市町の危険度表示を参考にして、土砂災害への対応を行うことが期待されています。こうした土砂災害警戒情報システムと、土砂災害防止法に基づく警戒区域の指定があれば、土砂災害による被害は、回避もしくは軽減できなければならないのですが、七・二一豪雨災害では、そうなりませんでした。
土砂災害警戒区域の指定は済んでおり、土砂災害警戒情報も通報されていたにもかかわらず、防府市では十四名もの方が、土砂災害の犠牲となられたのであります。防府市が、土砂災害警戒情報を放置して対応しなかったこと、「ライフケア高砂」が、国の基準で作成が求められている風水害への対応マニュアルを備えていなかったこと等のことが、批判されています。
しかし、土砂災害警戒情報の通報があったとしても、警戒区域の指定が、現時点では、全県で約九千八百カ所、防府の場合は五百八十七カ所ある中、大まかな五キロメートルメッシュでの危険度表示を参考にして、避難勧告地域を特定するなどのことは困難と思われます。
被害防止の対応のためには、さらに一歩進めて、より個別的、具体的な土砂災害についての防災情報を、行政の側も、住民や施設等も、事前に備えていることが必要なのであります。
そのための取り組みを行政の側が進めていくことは当然ですが、住民や施設の側が、それぞれに応じた具体的な防災情報を持つことは、それ以上に重要であります。そうした防災情報があれば、住民は、公表される災害情報で、行政の指示を待つことなく、自主的に被害防止行動をとることができるからであります。
自分の家は、自分の町内は、自分の職場は、自分の施設は、どういう自然災害の危険があるのか、そしてそれにどう対応したらいいのか、そのことを常日ごろから、各自が、防災情報として具体的に承知していることが、自然災害の被害を軽減、回避する上でとても大事と思います。
そこで、お伺いいたします。住民や施設などの求めに応じて、個別的、具体的にどういう自然災害の危険があるのか、それにどう対応したらいいのかを、防災情報として提供することを役割とし、市民、県民と防災情報のかけ橋となる常設の機関として、防災情報センターを設置すべきと考えますが、御所見をお伺いいたします。
以上で、一回目の質問とさせていただきます。
【回答】◎知事(二井関成君)
私からは、消防の広域化のお尋ねについて、一県一消防本部体制に対する、基本的な考え方についてお答えをいたします。
私は、県民の安心・安全を確保する観点から、現場活動要員の増強や高度資機材の計画的な整備などの、消防組織の強化を図り、昨今の大規模化・多様化する事故や広域的支援を要する災害等に的確に対応することや、現下の厳しい地方財政下において、消防に関する行財政運営の効率化・基盤の強化を図るためには、消防の広域化を実現することが極めて重要であると考えております。
特に、今回のような災害を踏まえますと、初動時における救出・救助等の迅速・的確な対応を図るためには、一元的な指揮命令や資機材の有効活用の観点から、消防の広域化は重要であり、将来的には広域化の効果が最も大きい、県一本部体制を理想として目指していくことが必要であると考えております。
しかしながら、現在の消防組織法におきましては、市町村消防を原則としておりますことから、そうした県一の消防体制を確立する上においては、さまざまな課題や制度的な改善を要するものがあります。
具体的には、広域化された消防本部は、防災等に一義的責任を有する市町よりも広い管轄区域になりますことから、広域の消防本部と各市町の首長、あるいは、防災組織との連携のあり方が最も重要な課題になると考えております。
したがいまして、私としては、県一消防本部体制を理想としながらも、こうした連携のあり方等の課題を踏まえ、広域化について、市町において十分議論されるべきであると考えており、また、国においても検討されるべき課題であると認識をいたしております。
そのような中、一つのステップとして、国の有利な財政支援措置が受けられる平成二十四年度までに、可能な限りの消防の広域化が図られるよう、市町に対して強く働きかけていきたいと考えております。
そのほかの御質問につきましては、関係参与員よりお答えいたします。
【回答】◎総務部長(岡田実君)
消防の広域化など、合わせて六点のお尋ねにお答えをいたします。
まず、本県が一消防本部体制とした場合のすぐれた対応についてです。
県一の消防本部体制が実現した場合には、通信指令等の本部機能の統合等の効率化を通じ、救助や救急等の現場活動要員が増強され、また、はしご車や救助工作車等の高度な資機材等の計画的な整備が可能となり、お示しの六月の美祢市における中毒事故や七月の豪雨災害で発生したような、消防隊員の被災等の不測の事態にも、より的確に対応できる、強固な体制の整備が図られるものと考えております。
また、県下全域の被害状況や消防の出動状況があらかじめ的確に把握でき、同一指揮命令系統の中で、被災地への迅速な部隊の追加投入等、大規模災害時における初動対応の強化が図られるなど、あらゆる面で消防力の強化につながるものと考えております。
次に、消防広域化推進計画の枠組みに関し、県の推進計画の変更についてのお尋ねです。
市町における消防広域化の議論は、目下、始まったばかりであり、これから、大規模災害への対応の観点等からも、十分に議論を重ねていただくことが重要であります。
お尋ねの県の推進計画の変更については、今後、こうした市町による広域化の議論が進展し、合意が図られる際には、改めて見直すこととしております。
次に、県一消防本部体制に向けた合意形成についてです。
将来的には、適当と考えられる県一消防本部体制の実現に向けて、今後とも、市町に対し、一層の働きかけを行い、消防の実施主体である市町において十分な議論が行われるよう、県として必要な対応を図っていく考えです。
次に、通信指令業務についてのお尋ねです。
県一消防本部となり、指令業務が一元化された場合、火災や救急、救助等の要請に対し、災害等の現場からの距離に応じた部隊の出動順位や、効率的な経路、はしご車やドクターカー等の特殊な車両の出動等について、指令において、県下全域にわたる部隊を考慮した上で、適切かつ迅速な出動命令が可能となります。
また、指令業務の一元化によって、一一九番通報者が瞬時に把握できる発信地表示システム等の高機能装置を導入することなどにより、通信指令業務の的確性、迅速性は、これまで以上に向上するものと考えております。
次に、都道府県消防についてのお尋ねです。
昭和二十三年に消防組織法が施行されて以来、住民に最も身近な市町村が、消防の責務を負うとの「市町村消防の原則」のもとで、消防体制の強化が図られてきたところであります。
一方、お示しのように、災害の複雑化、多様化が一層進む中、以前にも増して、広域自治体である都道府県がその補完的役割を果たす期待も大きくなってきております。
お尋ねの都道府県消防を可能とすることについては、こうした状況も踏まえながら、今後、国・都道府県・市町村を通じて、なおさまざまな議論を重ねていく必要があると考えられます。
いずれにしても、本県としては、現行法に基づく体制のもとで、市町に対し、指導・助言を行いながら、消防防災体制の一層の充実強化に取り組んでいく考えであります。
最後に、防災情報センターの設置についてのお尋ねです。
災害発生時の被害の軽減を図るためには、住民がみずからの居住地についての過去の浸水や土砂災害等に関する危険度等を把握し、災害に備えておくことは極めて重要なことであります。
このため、県や市町など防災関係機関は、適切な役割分担の上で、住民に対し防災情報の提供を図るとともに、住民からの照会や相談に適切に対応する必要があります。
具体的には、市町においては、自主防災組織の紹介や、ハザードマップの整備による危険箇所・避難場所・避難経路など、地域に密着した、個別的・具体的な情報を提供する一方、県においては、お示しもありましたが、気象情報や河川水位、潮位さらには、土砂災害に関する情報など、広域的観点からの情報をホームページ等を通じて提供することとしております。
このように、県、市町においては、お示しのありましたような防災情報センターとしての役割を果たしているところであり、県といたしましては、今後とも、県、市町がそれぞれの役割に応じて、また十分連携を図りながら、おのおのが、いわば防災情報センター的機能を十分発揮できるよう、防災情報の一層の充実強化に努めてまいります。

【回答】◎土木建築部長(柳橋則夫君)
土砂災害の検証と対策に関する数点のお尋ねです。
まず、土砂災害の調査及び防災対策の基本方針です。
本県は、地形的、地質的特性から、全国三位の多くの土砂災害危険箇所を有しており、土砂災害がいつ、どこで発生してもおかしくない状況にあり、このたび、かつて経験したことのないような大規模な土石流が多数発生いたしました。
これに対するハード対策の実施には、膨大な期間と費用が必要となります。
このため、ハード対策とあわせてソフト対策、特に警戒避難体制の早急な確立が重要であると考え、土砂災害警戒区域、避難場所、避難経路等の防災情報が記載されている土砂災害ハザードマップを、これまでの砂防計画では平成三十年度までに整備することとしていましたが、今回の災害を踏まえ、平成二十四年度までに大幅に前倒しすることとしました。
一方、今回の災害では、従来の土砂災害警戒区域の調査や指定について、さまざまな教訓が得られました。
今後、土石流発生原因の究明などを行い、その成果を、土砂災害防止法に基づく警戒区域指定の調査の実施方法や、警戒区域指定の基準に反映させていくとともに、全国で広く成果を活用していただけるよう、国に対しても必要な情報提供を行う考えであります。
県としましては、今回の災害から得られた多くの貴重な経験、教訓を生かし、今後とも、土砂災害防止対策に全力で取り組んでまいります。
二点目は、土石流発生箇所についてです。
防府市では、警戒区域内で四十二渓流、警戒区域外で十一渓流の合わせて五十三渓流で土石流が発生しました。
警戒区域外の十一渓流のうち、保全対象の人家等がある三渓流については、今後、警戒区域の指定を行ってまいります。これらの三渓流は、谷の奥行きが浅いことや、河床の勾配が緩いなどの理由で、警戒区域指定の調査の対象外となっており、今後、調査方法の改善を検討してまいります。
一方、山口市では、十三渓流で土石流が発生しました。現在、警戒区域指定の調査を実施中であり、今回の災害を踏まえ、今後、警戒区域の指定を行ってまいります。
三点目は、土砂災害の検証究明についてです。
周辺で土砂災害が発生したにもかかわらず、警戒区域内で土砂災害が発生しなかった原因については、各分野の専門家から成る「土石流災害対策検討委員会」の中で議論していただきます。
四点目は、地質や山林植生の専門家についてです。
県では、土石流と山地災害の原因、復旧対策について検討を行う委員会を、それぞれ設置することとしています。
この二つの委員会では、お示しの地質や山林植生の専門家に委員として就任していただいております。
また、警戒区域指定の調査に、お示しの専門家を加えることは、委員会での成果を踏まえ、今後必要に応じて検討してまいります。
五点目は、急傾斜地についてです。
今回の豪雨により、県内において、百三十二カ所でがけ崩れが発生しており、その中で傾斜度三十度未満は一カ所です。土砂災害防止法では、傾斜度三十度以上で警戒区域を指定することとしておりますが、これは、傾斜度三十度を超えた場合、災害の頻度と危険度が増すとされていることからです。
今回の災害を受け、お示しの点につていも、今後、現地の状況を十分精査してまいります。
【回答】◎農林水産部長(松永正実君

土砂災害対策のうち、森林整備についてのお尋ねにお答えをいたします。
今回の豪雨による山腹の大規模な崩壊につきましては、雨量や土質など多様な要因を検証して、今後の対策のあり方を検討する必要がございます。
このため、県としては、森林分野の学識経験者などで構成する「山地災害対策検討委員会」を設置をして、現在、幅広い観点からの調査検証を進めております。この委員会では、防災の視点からの森林整備のあり方につきましても、意見や提言をいただくこととしておりますので、その結果も踏まえながら、今後の対策や整備の方向について検討したいと考えております。

2009年9月30日