平成23年2月定例県議会 (3)花粉交配用ミツバチの確保対策について

(3)花粉交配用ミツバチの確保対策について

数年前、「Fruitless Fall」という本がアメリカで出版されて話題を呼びました。フルートは果物を、フォールは季節の秋を意味しますので、「フルートレス フォール」は、直訳すれば、「果物なき秋」ということで、「実りなき秋」ということになるでしょう。
この本は、日本では、「ハチはなぜ大量死したのか」という邦題で翻訳出版されています。
著者は、ローワン・ジェイコブセンというジャーナリストで、農薬使用への警鐘を鳴らした古典的な著書、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」と対をなすこの本は、ミツバチのいなくなった世界を端的に表現し、そのことを通して今日の世界に警鐘を鳴らしています。
テレビでも幾たびか報道されたのを見られた方もおありと思いますが、二○○七年ごろから我が国を含めミツバチの減少が世界的な傾向としてあり、農作物の生産に深刻な影響を与えています。
御案内のように、ミツバチはハチみつをつくるだけではなく、花粉交配という野菜や果物が実るために不可欠な大事な働きをする昆虫であります。
ミツバチが直接つくるハチみつやローヤルゼリー等の国内総生産額は、一九九九年のデータでは七十二億円であります。
一方で、ミツバチが花粉交配に貢献する農作物の総生産額は三千四百五十二億円であります。実に五十倍近くも開きがあり、ミツバチの働きぶりはハチみつ以上に野菜や果物に影響を及ぼします。
お配りした参考資料に、ミツバチを利用する主要農作物一覧を載せてありますが、多くの野菜や果物で花粉交配でミツバチが貢献していることが、おわかりのことと思います。ミツバチが減ると、こうした農作物の生産に支障が生ずるのであります。
日本で最もミツバチが利用されているのはイチゴ栽培で、我が国では約十万群の花粉交配用のミツバチが飼われていますが、その半分は、ハウス内でのイチゴ栽培に使われています。ここでいう群とは、一匹の女王バチとたくさんの働きバチと、それにわずかな雄ハチで構成されるミツバチの集団のまとまりのことであります。
我が国では、一九八○年ごろから、蜜源となる花や樹木の減少や養蜂家の高齢化などにより、花粉交配用ミツバチは穏やかな減少傾向にありました。それが、二○○八年秋から急激に減少しています。この最大の理由は、女王バチの輸入ストップであります。
実は、我が国で養蜂農家に飼われているミツバチはニホンミツバチではなくセイヨウミツバチなのであります。セイヨウミツバチが、業としての養蜂には向いているからであります。
ハチを生むことができるのは、雌バチでも女王バチだけで、あとの雌バチは、働きバチとして働くだけであります。そのセイヨウミツバチの女王バチを我が国は主にオーストラリアから輸入していましたが、そのオーストラリアのミツバチにノゼマ病という伝染病が発生したため、二○○七年十一月以降、それが一切不可能となったのであります。
加えて農薬によるハチ群の被害やミツバチヘギイダニというダニの寄生による働きバチの減少などが、ミツバチ減少の主な理由として考えられているようであります。
また、世界的に生じている蜂群崩壊症候群――CDDと言われていますが、蜂群崩壊症候群という現象が我が国でも生じています。蜂群崩壊症候群というのは、ハチの群が、女王バチとわずかな働きバチを残して消失してしまう現象であります。
こうしたことから、ついに二○○九年四月、日本国内でその花粉交配用ミツバチが不足する事態となりました。
花粉交配用のミツバチは、花蜜採集用のミツバチとは別に数えられていまして、その数は二○○八年の統計で約十万二千群であります。この数は、前年比で一○%減っています。それが、二○○九年の春になりますと、二○○八年より事態は深刻となり、ミツバチを飼っている養蜂農家は、この花粉交配用ミツバチを十分に用意できませんでした。
花粉交配に活躍する昆虫のことをポリネーターといいますが、ミツバチにポリネーターとして働いてもらわなくてはならない農家にとって、このことは大きな打撃でありました。
千葉県の農業団体が、農林水産省を訪ねて、当時の石破茂農水大臣に対策を要望したのは、こうしたときでありました。石破大臣は、それを受け、記者会見で「生産者の立場に立って、全力を挙げて取り組む」と表明。この大臣表明を受けて、農水省は、ミツバチの需給調整システムを立ち上げ、また、花粉交配用ミツバチの安定的な確保のための緊急支援事業として、蜜源になる植物の作付の支援や女王バチ増殖機材の購入支援等の予算として、各都道府県に上限二千万円の補助を行ったのであります。
以上は、吉田忠晴玉川大学教授著「ミツバチの不足と日本農業のこれから」からの要点の引用紹介であります。
私は、山口市の養蜂農家から、この本に書かれているミツバチ不足や蜂群崩壊症候群という現象が、本県でも生じていることを知らされました。そして、ミツバチの不足が、本県農業の振興、山口県の食料自給率向上の行動計画にも係る大きな問題であることに思いが至った次第でありまして、以下このことに関し、県の対応について四点お伺いいたします。
その第一点は、本県の花粉交配用ミツバチの確保対策についてであります。
本県においても、花粉交配用ミツバチの確保は、特に施設園芸農家にとって不可欠と思いますが、その確保のためどういう対策をとっておられるのか、まずお伺いいたします。
第二点は、養蜂農家や施設園芸農家への助成についてであります。
養蜂農家は、飼っているミツバチをハチみつ採集で使った場合は、一群で四ないし五万円の売り上げになるようであります。これを花粉交配用に施設園芸農家に貸し出した場合は、十月下旬から翌年三月までのワンシーズン貸し出した場合、本県では一群二万円のようであります。
この貸出料は、他県と比べると安いようですが、本県の施設園芸農家の生産コストを低く抑えるために、そうした価格の設定になっているようであります。
養蜂農家からすれば、花粉交配用に貸し出した場合は、安い上に、七ないし八割のハチが損傷して割が合わないとの思いがあるようです。しかし、花粉交配用のミツバチの貸出料が高くなれば、施設園芸農家が困る事態となります。
そこで、養蜂農家が花粉交配用にミツバチを貸し出した場合、単市で養蜂農家に補助している市も県内にはあるようであります。ただ、こうした場合、問題なのは、市外の施設園芸農家から要請があったとき、それにこたえても補助対象にならないということであります。
よって、養蜂農家も一定の利益が確保されるが、施設園芸農家の花粉交配用ミツバチ使用の費用も極力抑制できるような助成の仕組みを、養蜂農家支援・施設園芸振興の観点から県と市町が連携して、全県的な仕組みとして創設することが望ましいと考えます。つきましては、このことにつき御所見をお伺いいたします。
第三点は、女王バチの育成についてであります。
さきに紹介いたしましたように、我が国におけるミツバチ減少の最大の理由は、女王バチが輸入できなくなったことでありまして、その対策として、女王バチを国内で育成、生産する取り組みが重要になってきております。
本県では、美祢にあります畜産試験場で、女王バチの育成に取り組んでいたのを、数年前にやめたように伺っておりますが、私は、これを復活し、さらに女王バチの人工授精による生産にも取り組み、山口県は、女王バチの国内における供給県になることを目指すべきだと考えますが、このことにつき御所見をお伺いいたします。
第四点は、蜜源となる樹木の計画的植栽についてであります。
ミツバチの飼育支援のためには、街路樹等において、ミツバチの蜜源となる樹木を計画的に植栽していくことが必要と思われますが、こうした取り組みにつき御所見をお伺いいたします。
以上で一回目の質問を終わります。

【回答】◎農林水産部長(藤部秀則君)
次に、農業問題について、花粉交配用ミツバチの確保対策に関する数点のお尋ねにお答えいたします。
まず、花粉交配用ミツバチの確保対策についてであります。
平成二十年度に、病気によると思われる働きバチの減少等により、全国的なミツバチ不足が懸念されたことから、本県では、平成二十一年四月以降、県と養蜂農協、JA、園芸農家が連携して、需要と供給の調整を適切に進めているところであります。
この結果、園芸農家の要望に応じて、毎年度八百群以上が供給されるなど、イチゴ、メロン等の花粉交配用ミツバチは、十分に確保されております。
次に、養蜂農家や園芸農家に対する支援についてであります。
本県では、関係者の努力により、花粉交配用ミツバチが安定的に確保・供給されていることなどから、養蜂農家や園芸農家に対する直接的な支援や、市町と連携した新たな制度の創設は考えておりませんが、引き続き、養蜂農協やJA、園芸農家の要望などを踏まえ、ミツバチの需給調整や、農薬による事故防止、環境に適した管理方法、さらには、花粉交配が必要なイチゴ栽培施設の整備などを通じた支援等を適切に実行していくこととしております。
次に、女王バチの育成についてであります。
本県では、平成三年度以降、養蜂農協の強い要望を踏まえ、優良な女王バチの系統を選抜して養蜂農家に供給する事業を実施してきましたが、平成二十一年二月に養蜂農協が本事業の中止を決定したことに伴い、十八年間実施してきた事業を廃止し、女王バチの供給を取りやめたところであります。
現在は、養蜂農協みずからが女王バチの育成に取り組んでおり、県としては、女王バチの作出技術講習会の開催や、育成技術指導などを通じて、ミツバチが適正に確保・供給されるよう努めてまいります。
次に、蜜源となる樹木の計画的な植栽についてであります。
ミツバチの蜜源となる花の咲く樹木を街路樹として植栽することは、道路の維持管理上難しい点もありますが、森林づくり県民税事業による竹林伐採跡地などに、地元住民やボランティア団体、養蜂関係者等が広葉樹の植栽を行う場合や、緑化基金を活用して、公共・公益施設への緑化木の無償提供を行う場合において、ヤマザクラ、クリ、トチノキ、ユリノキ等、蜜源となる樹木の植栽を働きかけるなど、養蜂農家の蜜源対策に配慮してまいりたいと考えております。

2011年3月1日