平成24年2月定例県議会(1)東日本大震災復興支援について

(1)東日本大震災復興支援について

「東日本大震災復興支援、この言葉を見て『そうだ、やるぞ!』という気になった。この大災害時に、国体に打ち込んでいていいのかとの思いが払しょくされ、全力で取り組めるようになった。そして優勝することができた。国体で優勝できた最大の理由は、東日本大震災復興、この言葉が冠せられたことにある。」
昨年11月、「国体感謝の集い」が、湯田温泉のホテルで開催された時、武道競技を優勝に導いた指導者の方が、熱っぽく思いを込めて、そう語っておられました。
2万名もの多くの尊い人命が失われた未曾有の大災害、東日本大震災の勃発からおおよそ半年後に開催された昨年の山口国体は、東日本大震災復興の一語を冠することによって意義ある大会となり、本県は悲願の天皇杯獲得、総合優勝を果たし大成功裏に終了することができました。
先ずもって改めて、二井知事をはじめ関係者の皆さまのご尽力に感謝と敬意を表し、その労をねぎらいたいと思います。
そして、東日本大震災復興支援の旗印を高く掲げた本県が、国体終了後は具体的な復興支援においてその先頭に立ち貢献することを願い、この度は、本県の東日本大震災復興支援の取り組みについてお伺いいたします。
私は、先般二月中旬、宮城県庁や南三陸町役場等を訪ねてきましたが、現在被災地が復興支援ということで切実に求めていることは、災害廃棄物の広域処理の受け入れと人的支援の二つであることがよくわかりました。そこで、この二つのことについてお尋ねいたします。
先ずその一、災害廃棄物の広域処理受け入れについてであります。
ご案内のように東日本大震災は、日本における観測史上最大のマグニチュード9を記録した大地震と、それにより発生した波の高さ最大15m、遡上高最大40.5mと見られる大津波が、東日本太平洋沿岸部を襲い、特に東北地方の沿岸部には潰滅的な被害をもたらしました。加えて、この津波により全電源喪失状態となり原発事故としては最悪のレベル7となった福島第一原発事故が、更にこの震災の被害を深刻なものにしております。
言うまでもなく、この災害は被災地だけの災害ではなく日本の災害であります。そうした認識に立ち、かって私たちの父祖の世代が廃墟となった戦後の日本を復興したように、今度は今の時代に生きる我々が、震災からの新たな日本復興を実現していかなければなりません。
私は、この震災からの復興に向けて二つの「合う」が、今日の日本国民に求められていると思っています。その二つの「合う」とは、「足らざるを補い合う」と「負担を分かち合う」です。
そして、災害廃棄物の広域処理もこの二つの「合う」の精神で、本県も含め全国の自治体で受け入れが進むことを願っています。
災害廃棄物の広域処理が求められる背景には、特に津波の被害により、あまりにも膨大な災害廃棄物が生じているという実情があります。
被災三県のうち福島県の廃棄物は全部県内処理の方針ですので触れませんが、宮城県は約1569万トンで通常処理量の約19年分、岩手県は約476万トンで通常処理量の約11年分の災害廃棄物が発生していると推計されています。
宮城、岩手両県とも、県内各所に第二次仮置き場を設置して、そこで廃棄物の分別、破砕等の中間処理、焼却等も行い、可能な限り県内処理をしていく方針ですが、処理計画期限である平成26年3月までに、これを完了するには、処理能力を超えた分、宮城県では約344万トン、岩手県では約57万トンを、広域処理分として県外で受け入れてくれることを求めています。
この災害廃棄物広域処理に係る主な動きを、時系列に見ていきますと、先ず震災発生からおよそ1ヶ月後の昨年4月8日、環境省は全国の自治体に対して受け入れ可能性調査を実施しております。これへの回答では、572自治体、本県では10自治体が受け入れの意向を明らかにしております。
次に8月11日、環境省は「災害廃棄物の広域処理に係るガイドライン」を示し、8月18日には「がれき処理の特別措置法」も成立し、その推進を期します。その一方、8月30日には福島第一原発事故で放出された放射性物質により汚染された廃棄物や土壌等の処理に関する基準等を定めた「放射性物質汚染対処特別措置法」が成立します。
こうしたことを受けて、全国の自治体は改めて災害廃棄物の受け入れの可否を検討することになります。
そうした中、9月28日東京都は岩手県宮古市の災害廃棄物の受け入れを発表しました。
そして、10月11日環境省は、改めて全国の自治体に対して受け入れ処理可能量等に係る再調査を実施しました。
これに対し、本県は10月21日、県内の市町の回答を環境省に報告し、受け入れ意向のある自治体はない旨を伝えました。
全国の自治体の動向は、11月2日に公表され、受け入れ意向の自治体等は、4月調査の572から54へと10分の1以下に激減しております。しかも、その受け入れ意向の54自治体等も、ほとんどは受け入れを検討中ということで、実際受け入れが実現したのは、東京都と山形県、それに青森県の三つにとどまっています。
現時点で見られる追加の動きとしては、静岡県の島田市が受け入れに向けて試験焼却を実施しており、他に秋田、群馬、埼玉、神奈川、富山、石川、大阪の7府県が、受け入れに向けての具体的な検討を行っているようであります。兵庫県より西では、昨年11月に佐賀県武雄市の桶渡市長が、受け入れ表明を致しましたが、その後強い反対にあい、これを撤回しておりまして、それ以降、検討を行っている自治体はないようであります。
こうした現状から、これまで広域処理で受け入れを予定された量は約83万トンで、政府想定の2割にとどまっています。
災害廃棄物の広域処理受け入れが進まない背景には、言うまでもなく、放射能汚染への過剰な不安感、警戒感があります。
こうした住民の不安感、警戒感にどう立ち向かうのか、対照的な二つの事例があります。
昨年夏、京都の夏の風物詩として全国的に知られている大文字焼きは、被災地陸前高田市の高田松原の松の薪に、震災の遺族の思いが記されたもの400本を、鎮魂の思いを籠めて8月16日送り火に加えて焼くことを企画しましたが、放射能汚染を心配する世論を無視できないということで最終的には断念、集められた薪は、京都ではなく陸前高田市で8月8日迎え火として焼かれました。
一方、正月の初詣客数は明治神宮に次ぐ全国第二位を誇り、「成田山」と呼ばれ親しまれていて全国的にも著名な真言宗の寺院、千葉県成田市にある成田山新勝寺は、同様陸前高田市から、震災で犠牲になられた方々への供養のためにと送られて来た松の木を、9月25日に行われた伝統行事「お焚き上げ」で、祈願成就のための護摩木と一緒に焚き上げました。この計画が明らかになると、成田山にも「放射能汚染の可能性のあるマツをなぜ持ち込むのか。」等の抗議の声が寄せられましたが、同寺院は、放射能検査を2回行い、検出されないことを確認した上で、「問題なし。」と判断して実施致しました。
災害廃棄物の広域処理分受け入れ要請への対応として、本県も含め全国の自治体が見習うべきは、成田山新勝寺の事例なのではないでしょうか。
私は、災害廃棄物受け入れ問題で問われているのは、日本国民の意識というより、我が国の政治、行政の責任ある立場にある者のリーダーシップであると見ております。
一般国民が、災害廃棄物の放射能汚染に不安感を持ち、それを拒否したく思うのは、ある意味自然な反応で、そのことを問題視することはできません。
ただ、政治や行政の責任ある立場のある者は、漠然とした不安感等に支配されてはならず、災害廃棄物の放射能が、地域や暮らしの安全、体の健康にとって心配ないレベルであることが明確であれば、その受け入れに向けてリーダーシップを発揮すべきであります。そうした姿勢は、強い反対や批判、様々な困難に遭遇することが予想されますが、それらを乗り越えていくリーダーシップこそ、本当の意味でのリーダーシップであります。
そうしたリーダーシップが、我が国には今日の時代どれほど在るのか、そのことを、災害廃棄物の広域処理問題は問うています。
この問いに応え得る真のリーダーシップが、数多く存していれば、今日我が国は様々の困難な課題に直面しておりますが、将来に希望を持つことができます。そうしたリーダーシップが僅かであれば、今後日本が沈んでいくのは避けられないでしょう。そうならないために、二井知事に起ち上がってほしい、そういう思いで私は、この質問を行っています。
以上申し上げましたことに対しては、気持ちは分かるが、そんなこと言っても、県は災害廃棄物を受け入れる施設を持っていないので、県の判断で、その受け入れを行うことはできない。災害廃棄物は一般廃棄物扱いであり、一般廃棄物の処理は市町の事務で、その受け入れが出来る施設を持っているのは市町である。県としては、国の要請を市町に伝え、後は市町の対応を見守るしかない、との反論が返って来ることが予想されますので、そのことにお答えしておきたいと思います。
確かに、県は廃棄物の施設を持っていません。しかし、県が主体的に関与している廃棄物の最終処分場があります。それは、宇部港東見初広域最終処分場です。県は、この処分場の護岸建設を港湾整備事業の一環として行っております。最終処分場としての供用開始は、平成20年からで、県内全域から産業廃棄物を、宇部市から一般廃棄物を受け入れております。この施設の運営主体は、山口県環境保全事業団でありますが、県はこの事業団の出資者であり、関係する市や経済団体と共にそれらのまとめ役的立場で、事業団の設立から運営まで深くかかわっております。この事業団の常勤の理事長は県のOBで、4人いる副理事長の一人は県の環境生活部の審議監です。
この処分場は、現に宇部市が一般廃棄物を搬入していることから、一般廃棄物扱いになる災害廃棄物を受け入れることは、宇部市の了解があれば、事業団の判断で可能であります。その事業団の判断において、重要なのが、県の考えであります。
こういうことからして、私は災害廃棄物の受け入れについて、県は県下市町の動向を見守るだけではなく、県自身も整備・運営にかかわってきた東見初最終処分場での受け入れに向けて主体的に取り組むべきだと考えます。
ついては、災害廃棄物の広域処理受け入れへの協力要請に、本県は、どのように応えていくお考えなのかご所見をお伺いいたします。

【回答】◎知事(二井関成君)
私からは、災害廃棄物の広域処理受け入れについてのお尋ねにお答えいたします。
昨年の東日本大震災による被害は、まさに未曾有の規模でありますことから、私は、復興に向けて我が国の総力を結集して取り組んでいかなければならないと考え、震災発生後、これまで被災地への職員派遣や避難者の受け入れなど、人的・物的両面からできる限りの支援を行ってまいりました。
現在、被災地の早期復旧・復興の支障となっている、大量に発生した災害廃棄物の広域処理につきましても、国を挙げて協力していくことが基本であります。
私は、被災地や、広域処理の先駆けとなった東京都に廃棄物担当の技術職員を派遣をし、被災地における廃棄物の保管や受け入れ処理の状況を調査させるなど、広域処理について現状把握に努めているところであります。
しかしながら、災害廃棄物の中には放射性物質に汚染されたものもあり、そのことが広域処理の大きな妨げになっております。
したがいまして、国におきましては、「広域処理の推進に係るガイドライン」を策定し、安全性の考え方を示されたところではありますが、現状では、国は十分な説明責任を果しているとは言いがたく、国民の不安はいまだ払拭されるには至っておらないと思っております。
具体的に申し上げますと、従来、廃棄物の放射能濃度がキログラム当たり百ベクレル以下でなければ処理することができなかったものが、新しい基準が施行された一月以降は、八千ベクレル以下であれば埋め立て処分してもよいとされるなど、安全性の根拠がわかりにくいものとなっているところであります。
また、災害廃棄物は、一般廃棄物であり、その処理は市町の所管でありますが、仮に本県で受け入れることを想定した場合は、市町のごみ焼却施設や最終処分場の処理能力に余力がないため、通常のごみ処理に支障を来すというおそれもあるわけであります。
さらに、本県では、循環型社会形成の先導的仕組みとして、他県にはない、ごみ焼却灰のセメント原料化リサイクルシステムを構築をしておりますから、民間事業者との調整も必要になってまいります。
また、お尋ねのありました東見初最終処分場への災害廃棄物の受け入れにつきましても、廃棄物処理法等に基づくさまざまな承認等が必要になってまいりますし、この処分場は、海を埋め立てる方式でありますから、現在、全国で、この方式の処分場で受け入れた事例もなく、国が示したガイドラインにおいても安全性の考え方がこれについては示されていないところであります。
このように、県内へ災害廃棄物を受け入れるに当たっては、多くの課題がありますが、私は、被災地の復旧・復興のため、国民全体で負担を分かち合うべきであるという基本的な考え方に立ち、まずは国に対して積極的に地域に出向き、広域処理の安全性や処理への協力について、丁寧かつ明確に説明し、責任を持って国民の理解を得るように要請してまいりたいと考えております。
また、国は、先般、受け入れにより増設が必要となる最終処分場への財政支援等、新たな支援策を示されましたが、今後、その活用の可能性等も含め、広域処理に当たっての課題について市町や関係団体等と情報交換を行うなどの取り組みを進めてまいりたいと考えております。
そのほかの御質問につきましては、関係参与員よりお答えいたします。

2012年3月1日