平成25年11月定例県議会(2)小学校の英語教育について

(2)小学校の英語教育について

「英語は道具であって、人間の価値や人格とは関係ない。」
「小さい時からネイティブ(英語の場合は、英語圏で育ち、正しい英語を話す人を意味する)から英会話を学んだ子たちが、大学では一番下の基礎英語クラスにいる。彼らに共通しているのは、中学一年の時は、英語は楽勝で勉強しなくてもトップだったのが、 二年生後半から英語教育についていけなくなり、極端に苦手になることである。」
「学校教育が目指さなければならないのは、日本人が何よりも日本語を思考の道具として使いこなし、日本人としての資質を身に付けることである。」
「『一流の日本人づくり』が、『国際人づくり』の土台である。日本語での思考の土台が確立され、日本語をしっかり使いこなすことができなければ、どんなに他の言語が技術的にはできても、本当の意味での国際人になることはできない。」

以上は、山口大学で英語を教えておられる先生の論考からの引用です。私は、誠に正鵠を得た大事な指摘であり、今日小学校で進行している英語教育の導入を考える上で参考にすべき卓見であると思っています。
ご案内のように、平成23年度から小学校の5年生、6年生は、「外国語活動」ということで週1時間、年間で35時間、英語学習が行なわれるようになりました。小学校への英語教育の導入は、 平成14年度からで、「総合的な学習の時間」を中心に国際理解教育の一環として英語活動が行なわれるようになったのが始まりです。ただ、このやり方では学校によって内容や時間数にばらつきがあり、 教育の機会均等や中学校に入学した時に共通の基盤が持てるようにということで、小学校5.6年生を対象に英語学習が「外国語活動」として必修化されました。
そして、現在は安倍政権のもと内閣府が所管する教育再生実行会議の第三次提言において、小学校の英語学習の抜本的拡充ということで、実施学年を小学3,4年からにする早期化や指導時間の増加、 更には英語学習を「外国語活動」から正式な「教科」にする等について検討するよう提言されていまして、小学校への英語教育の導入は、一層進む見通しです。
こうした英語教育導入の背景には、アジアの国々が英語教育に積極的だということも影響していると思われます。韓国では1997年に小学3年から、中国では地域の状況に応じて差はあるものの、 基本的には2001年に小学3年から必修化されています。
私は、世界の一体化、そういう意味でのグローバル化が進行している今日、国際的共通語としての英語を学び、身に付け使えるようになることの意義は認めるものであります。ただ、現在導入され、 さらに一層拡充されようとしている小学校の英語教育については、検証が必要と思うことがあり、以下三点ほど、県教育長のご所見をお伺いしたいと思います。
先ずお尋ねの第一点は、現在小学校で行われている英語教育の効果についてであります。平成23年度から必修化された小学校の「外国語活動」は、英語による歌やゲームなどで英語に慣れ親しみ、 英語によるコミュニケーション能力の素地を養うことが目標とされています。意図するところは、そのことが中学校における英語教育の基礎となり、英語の実践的なコミュニケーション能力を培うことに 繋がるということであります。ただ、冒頭に紹介しました山大の英語教育の先生の指摘のように、小さい時からの英会話、コミュニケーション重視の英語学習の効果を疑問視する見方もあり、検証が必要です。 そこでお尋ねです。「総合的な学習の時間」としての英語活動を含めれば小学校への英語教育の導入は10年余経過していることになりますが、そのことは中学校の英語教育に、どういう効果をもたらしていると見ておられるのかお伺いいたします。
お尋ねの第二点は、教育体制についてであります。現在、小学校における英語学習は、学級担任がALT(外国語指導助手)を活用しつつ受け持っているということのようですが、それで中身のある英語学習ができているのか、 英語学習にかかる負担増で学級担任が受け持っている国語や算数などの教科の授業に影響はないのか、英語担当の専科の教諭配置もなされているのか、小学校の教員採用試験においては英語の扱いはどうなっているのかお伺いいたします。
お尋ねの第三点は、国語教育についてであります。2001年にノーベル化学賞を受賞した野依良治先生は、「グローバル化と国際化は連続していますが、区別して考えなければなりません。 国際化は自分たちの国の特質を堅持したうえで、諸外国と関係をつくること。グローバル化は世界の一体化です。」と、述べておられます。正しく至言で、これから日本の特に若い世代に求められる生き方は、 日本人としての特質をしっかり保持した上で、グローバル化に対応していくことではないでしょうか。
従って、グローバル化への対応として英語を道具として使いこなせるようになることは望ましいことでありますが、その土台は立派な日本人であることであり、日本語での思考の土台が確立されていることであります。
そこでお尋ねです。小学校への英語教育の導入により、国語教育がおろそかになるようなことがあってはならない、むしろ国語教育は一層充実されるべきであると考えますが、このことにつきご所見をお伺いいたします。

【回答】◎教育長(田邉恒美君)
小学校の英語教育に関する三点のお尋ねにお答えいたします。
まず、中学校の英語教育への効果についてです。
小学校におきまして、英語教育は、平成十四年度から総合的な学習の時間の中で、国際理解に関する学習の一環として始まり、現在は学習指導要領の改訂により、外国語活動として実施されているところです。
各学校の外国語活動におきましては、歌やゲーム、簡単な日常会話など、子供たちは、楽しみながら英語になれ親しんでおり、今年度の六年生の調査におきまして、「英語が好き」と答えた児童の割合が八○%を超えるなど、外国語活動への興味関心が高まっているところです。
また、外国語指導助手との触れ合いにも物おじすることなく、英語を発することへの抵抗感が少なくなるなど、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度が見られ、中学校の英語教育への円滑な導入につながっていると考えております。
次に、小学校の外国語活動を進める上での教育体制についてです。
外国語活動の実施に向けましては、何よりも教員の指導力向上が重要でありますことから、具体的な指導方法について理解を深める研修を、全ての小学校教員を対象に行いますとともに、研究指定校や学力向上推進教員のすぐれた指導事例を取り上げた校内研修を行うなど、効果的な外国語活動が進むよう取り組んでいるところです。
また、全ての小学校で、文部科学省が作成した教材やDVDなどを活用し、外国語活動に係る負担軽減を図っており、国語や算数など他教科の授業への影響が生じないよう取り組んでいるところであります。
英語担当の専科の教諭につきましては、配置していないところでありますが、学校によっては、教員の専門性等も踏まえ、必要に応じて専任化している事例もあります。
また、小学校の教員採用試験における英語の扱いにつきましては、平成二十年度実施の採用試験から、英検二級程度の資格を選考に当たっての評価項目とするとともに、二十三年度実施の採用試験からは、筆記試験に外国語活動に関する内容を出題しているところであります。
次に、国語教育の充実についてです。
急速に進展するグローバル社会で将来にわたり活躍できる人材を育成していくためには、英語学習を通じて豊かな語学力や国際感覚、コミュニケーション能力を身につけるとともに、自分の考えや意見を論理的に組み立て主張していく力が求められており、その基盤となる思考力や教養、情緒を育む国語教育を一層充実していくことが重要と考えております。
このため、小学校低学年の国語科におきましては、音読や漢字の読み書き、読書等の学習機会の拡充により、国語の基本的な力の確実な定着と言葉に対する感性等を育みますとともに、中・高学年におきましては、考えを深める話し合いなど、発展的な学習の取り組み等を進めております。
また、授業改善におきまして、校内研修を活性化させ、全ての学級において活用する力を高めるための言語活動を重視した授業を推進いたしますとともに、保護者や地域ボランティアとの連携などによる読書活動の充実にも取り組んでいるところであります。
県教委といたしましては、市町教委や学校、家庭、地域社会と連携を密にし、効果的な英語教育にもつながる、国語教育の一層の充実を図ってまいります。

2013年11月30日