平成26年11月定例県議会【地方創生】(1)林業振興

林業振興について

安倍政権の看板政策となった「地方創生」が、単なる政治的なパフォーマンスで終わるのかどうかの試金石は、林業振興に関して実効ある政策を推進することになるかどうかにあると見ております。
我が国は豊かな森林資源大国であるにもかかわらず、その天与の恵みを生かし切れていないのは、まことに残念なことであります。私は、我が国における林業に政治の不在を感じております。
日本学術振興会特別研究員である白井裕子氏は、その著「森林の崩壊」において、一人が一日に生産する木材の量は、一九五〇年ごろには、北欧諸国ではおよそ一・五立米で、日本とそう違いがなかったのが、二〇〇〇年には、北欧諸国では三十立米にも達し、林業の高度化、生産性の向上が格段に進んだのに対し、日本は三ないし四立米にとどまっていることを指摘して、このような木材の産出に関する生産性の大きな格差は、戦後五十年ほどの間に開いたものであることを明らかにしております。
我が国における林業振興への取り組みは、そのような北欧諸国との間に開いた林業に関する生産性の格差を解消する取り組みであると言えます。私は、安倍政権が「地方創生」の柱の一つとして、そうした方向での強い政治意思に基づく林業政策を推進するようになることを期待するものであります。
ただ、このたびの「地方創生」に向けての国の基本姿勢は、地方の自主的な取り組みを基本とするということであり、要は、国がアイデアを出して引っ張るというのではなくて、地方の現場から出たすぐれたアイデアを国が支援するという方針であります。それに応える形で、本県が来年度予算要望において「地方創生」に向けた取り組みとして、林業の成長産業化の先駆モデルとなるスマート林業実証プロジェクトの実施を政策提言したことを評価するものであります。
しかし、我が国の林業には、そのような最先端の林業モデルの実現に向けて、解決しておくべき足元の課題があります。私は本県が、まずそのような林業振興の土台となる課題解決においてモデルとなることを期待し、以下林業振興について二点お伺いいたします。
その一は、山林の境界明確化と公図作成についてであります。
山口県においては、山林原野に関する地図は、地籍調査が行われたところ以外は、法務局登記所に備えつけられていません。そのため、山林の所有者、境界、面積等の権利関係が、公的に不確定のところが多く、このことが森林整備、林業の大きな障害になっております。
県が森林法に基づいて森林資源の把握のため作成した森林簿・森林計画図はありますが、これは関係者の確認を経ていないため、個々の山林の所有者や境界等土地に関する諸権利を証明するものではないとされています。
そのため、林業関係者が一様に懸念していることは、山林の境界がわかっている人がいる間に、早く境界を公的に確定した山林の公図をつくっておかないと、後になるほどそれが困難になるということであります。
所有権、財産権に対する法的な保護が強い我が国においては、山林といえども所有者の同意、了解なしには立ち木一本切ることもできないし、森林施業のための作業道をつくることもできません。
山林の所有者や境界等を明確化し公図を作成することは、林業に関するさまざまな計画の策定や施業の実施、林業への新規参入者の受け入れ等がスムーズに行われるために不可欠な山林の基礎データであります。山口県は、林野面積が四十三万九千ヘクタールで林野率七二%は全国平均を上回っており、本県林業は産業としても大きな可能性を有していると思われ、産業政策の面からも山林の境界明確化と公図の作成が急がれます。
そこでお尋ねいたします。山林の境界を明確化し公図を作成することは、県や市町が林業振興のため最優先で取り組むべき喫緊の課題であり、県下全域での実現に向けて、早急にかつ集中的に取り組むべきであると考えますが、御所見をお伺いいたします。
その二は、木材の安定供給と循環的森林整備についてであります。
山口市に本社工場を立地する大手の製材会社である大林産業は、山口テクノパークに杉のみを扱う分工場を建設して操業していますが、そこで製材する杉の素材の七割は、現在九州産であります。県外産の素材の確保は、運賃コストが高くなるため、でき得れば七ないし八割は県内産にしたいのですが、県内木材市場では、その確保が困難なためであります。
杉は、大体林齢五十年ころのものが伐採されて、主に建築用構造材として使用されることから、この大林産業の分工場も当然そのような杉の素材を求めています。
実は、戦後植林された人工林の杉林で、今日最も多いのは、その林齢五十年前後の杉でして、本県も同様であります。したがって、需要に応じて県産の杉が供給されていいはずなのですが、そうなっていません。山に必要とする杉は十分育っている。しかし、それが木材市場には必要量供出されていない。そのため、県外産の木材を求めざるを得ない。これが実情であります。
こうしたことから明らかに、山口県における林業の課題を、需給関係から見ますと、解決すべき課題が多いのは供給の側であります。本県林業は、需要に応え得る供給力を発揮していません。御案内のように、県産木材を一定の基準にのっとって使用する住宅建築に対して五十万円の助成を行う県産材利用促進の制度があり、その制度の意義は認めるものですが、本県林業の現状からして、より重要なのは木材の供給力を強化する施策の実施ではないでしょうか。
では、どうすれば本県の木材の供給力は強化されるのでしょうか。結論ははっきりしています。県下の森林組合が、皆伐に取り組むようにすることであります。
山林から切り出した丸太を素材と申しますが、本県の素材生産量は、平成二十五年が二十二万五千立米であります。そのうち搬出間伐によるものが三万八千立米でありますので、皆伐による素材生産が八三%と大部分を占めています。ただ問題は、その皆伐を主に行っているのは民間の素材生産業者であり、そのほとんどが零細であることから、そこに素材の供給力の強化を期待することはできないということであります。
ちなみに、平成二十二年の調査によりますと、本県における民間の素材生産業者の雇用数は、平均は五・一人であります。一方、県下には森林組合が九組合ありますが、平成二十一年の調査では一組合の林業従事者雇用数は、平均五十六・七人で、民間業者の十倍強であります。この森林組合が行っている伐採の施業は、現在は、ほとんどが搬出間伐で皆伐はわずかであります。その最大の理由は、搬出間伐には国の補助があるが、皆伐にはそれがないということで、森林組合の経営上、そのような施業の選択になっています。
森林組合の伐採の施業は、ほとんど搬出間伐になっていることは、将来を見通しての森林整備の上からも問題があります。搬出間伐だけだと、植林が行われません。そのため、将来の世代が必要な木材を確保できなくなることが予想されます。林業は、今だけよければいいというものではなく、将来の世代のためにはかるという思いが根底になければなりません。そういう意味から林業は、林齢が平準化した循環的森林整備を目指すべきであります。そしてそのためには、一定量の皆伐と植林をセットで行っていく取り組みが不可欠であります。
そこでこのことに、森林組合が経営上の判断からも取り組めるよう施策を講ずることが求められます。そうすることが、本県における素材の供給力強化となり、木材の安定供給を可能にすると同時に、あわせて循環的な森林整備の促進にもつながるものと思われるからであります。
島根県では、循環型林業に向けた原木生産促進事業ということで、皆伐と植林をセットで行う場合、搬出素材一立米当たり五百円補助する制度を単県で設けて、素材生産量の増加を目指し、安定供給に力を入れております。
そこでお尋ねいたします。本県において、素材の供給力を強化して木材の安定供給を図るとともに、将来を見通して循環的森林整備を推進していくためには、一定量の皆伐と植林をセットで行うようにしていくことが必要であり、その事業に特に森林組合が取り組むことができるよう施策を講ずるべきであると考えますが、御所見をお伺いいたします。
また、平成二十四年度においては、人工林の皆伐面積が三百九十七ヘクタールであるのに対し、再造林面積は百八ヘクタールで、人工林皆伐後の植林面積は、皆伐面積の約四分の一であります。これは、主に皆伐を行っているのは民間の素材生産業者ですが、その皆伐後に植林が行われてないところが多いことを示しています。そこで、循環的森林整備を推進していくためには、民間の素材生産業者が皆伐を行った後に、適宜再造林が行われるようにしていくことが、あわせ必要であると考えますが、御所見をお伺いいたします。

【回答】◎農林水産部長(野村雅史君)

林業振興についてのお尋ねにお答えをいたします。
まず、山林の境界明確化と公図の作成についてです。
お示しのとおり、森林施業を進めるためには、森林の所有者や境界等の情報の整備が不可欠であり、所有者が高齢化や不在村化している中、所有者を特定し、境界の明確化を進めることが課題となっております。
土地の所有者や境界の公的な確認と地図の作成は、市町が実施する地籍調査によって行われており、本県の地籍調査の進捗率は、全国平均の五一%を上回っているものの、六一%にとどまっております。
このため、引き続き、地籍調査を着実に推進するよう働きかけますとともに、国の交付金を活用しながら、森林組合等が実施する境界確認と簡易測量等を支援し、その成果が地籍調査に活用できるよう努めてまいります。
次に、木材の安定供給と循環的森林整備についてです。
杉・ヒノキの人工林の多くが利用期を迎える中、林業の振興を図っていくためには、森林の多面的機能に配慮しつつ、原木の供給力を強化し、森林資源の循環利用につながる森林整備を推進することが重要であると考えております。
このため、県では、県森林組合連合会と製材工場との安定取引協定の締結を推進し、木材需要に的確に対応できる原木供給体制の整備を進めていますが、本県では、一ヘクタール未満の森林所有者が多数を占めており、効率的な施業や規格・品質のそろった原木を大ロットで供給することが難しい状況にあります。
こうした課題を克服し、原木供給の拡大を図るためには、分散した森林所有者の合意形成を図り、小規模森林をまとめて一体的に整備を進めることが重要です。
このため、現在、森林組合を主体とし、路網整備を初め、森林所有者が定期的な収益を確保でき、多面的機能を維持できる搬出間伐を推進するとともに、あわせて、多面的機能への影響が小さい小面積の皆伐にも取り組んでいるところです。
こうしたことから、お尋ねの一定量の皆伐と植林をセットで行う取り組みにつきましては、本県では、大規模に実施することは困難でありますが、小規模皆伐を対象とする国の補助事業を活用し、森林組合等が皆伐・植林をモザイク状に順次行う、一体的な整備を推進してまいりたいと考えております。
また、民間素材生産業者の皆伐後の植林については、昨年度から、素材生産業者と森林組合が木材の生産及び再造林に関する協定を締結し、伐採作業と植林作業を連携して効率的に行う取り組みを推進しているところであり、今後とも、伐採跡地の適切な植林を推進してまいりたいと考えております。

2014年11月30日