平成25年9月定例県議会(1)7月28日大雨災害について

(1)7月28日大雨災害について

「災害は忘れたころにやってくる。」と云いますが、本県はここ5年の間に、平成21年、22年そして今年と、忘れる間もなく三度大雨災害に見舞われました。
平成21年7月21日の豪雨災害では、主に防府・山口地域で土砂災害、浸水被害が発生し、17名の方が犠牲となられ、損壊・浸水被害を受けた家屋の総数は4698棟に上りました。
その一年後、平成22年7月15日の大雨災害では、県西部を中心に、局地的な集中豪雨に見舞われ、厚狭川や木屋川の氾濫等により、多数の家屋の浸水や道路交通網寸断等の被害が生じました。
そして、今年の7月28日大雨災害。気象庁が「これまでに経験のない大雨」と警戒を呼び掛けた猛烈な大雨に見舞われ、山口市の阿東地域、萩市の田万川・須佐地域、阿武町等において河川の氾濫、土砂災害等が発生し、2人の方が亡くなられ1人の方が行方不明となりました。また、山口市の市街地及びその周辺地域においては内水による浸水被害が生じました。
そこで、今回は「7月28日大雨災害について」ということで、過去の大雨災害も踏まえ、今回の災害からの復旧と、内水浸水被害対策についてお伺いいたします。

(1)河川の復旧について
先ず、お尋ねの第一は、「河川の復旧について」であります。ご案内の通り、7月28日早朝からの猛烈な雨は、1時間の降水量が、山口市では143.0ミリ、萩市須佐では138.5ミリと、いずれも「これまで経験のない」観測史上最大の大雨となりました。
このため、阿武川、田万川、須佐川等の水系において河川が氾濫し、流域に甚大な浸水被害が発生しました。
県は、先の8月臨時県議会において、「このたびの集中豪雨も踏まえた河川整備のあり方について速やかに検討したい。」「局地的な集中豪雨はいつでもどこでも発生するといった観点から、このたびの集中豪雨を主要水系に再現し、各水系における洪水の発生状況等を検証する。」「この度の集中豪雨も前提とすべき気象条件の一つとして整理した上で、総合的な治水対策を効率的、効果的に進める。」旨、表明しておられます。
そこで、特に阿武川、田万川、須佐川の三水系の河川復旧について、2点お伺いいたします。

第一点は、阿武川、田万川、須佐川の三水系の復旧方針についてです。この三水系の復旧は、当然に先の8月臨時議会で示された河川整備、治水対策の方針に基づいて行なわれ、将来今回同様の大雨が降ったとしても流水の氾濫を生じない河川となるよう改良整備されるものと考えておりますが、このことにつきご所見をお伺いいたします。

第二点は、特に阿武川の鍋倉地域の改良整備についてであります。阿武川は、鍋倉のリンゴ園の手前のところで右に大きく蛇行しております。その蛇行し始めのとこらから左岸側数十メートルは、護岸強化の工事が10年程前に行なわれています。これは、水害対策としての河川改良工事の一環であったと思われますが、この度の大雨で増水した流水は、 その護岸を越水してリンゴ園が冠水する事態となりました。また、蛇行前の左岸側は護岸の強化がなされていないために、増水した激流が大量に越流して鍋倉のリンゴ園一帯に流れ込み甚大な被害を生じました。ここで長年リンゴ園を営んでおられる園主の方は、過去これまで昭和38年と47年の二度被災しており、今度で3度目です。もう二度とこういうことが起こらないようしてほしいと、繰り返し訴えておられました。
当然の思いで、河川の復旧改良は、それに応えるものでなければならないと考えますが、過去に浸水被害があった時には、抜本的対策として河川の線形を変えて蛇行そのものを無くす河川改良も検討されたように聞いております。
そこでお尋ねです。阿武川の鍋倉地域において再び浸水被害を生じないようにするためには、抜本的な河川改良が必要と考えますが、どのように整備される方針なのか、ご所見をお伺いいたします。

(2)内水浸水被害対策について
水害といえば、従来河川の氾濫による浸水被害のことでありましたが、近年は、河川の氾濫というより河川に雨水が排水されないための浸水被害、所謂内水浸水被害が頻発するようになり、これの解消が暮らしの安全・安心を確保する治水上の新たな政策課題となって来ております。
この度の大雨災害においても、山口市北部の市街地及びその周辺地域では、629戸の内水浸水被害が生じており、そのうち105戸は床上浸水でした。この地域は、椹野川水系の流域でして平成21年7月の豪雨災害時にも、1400戸ほどの浸水被害が生じておりまして、 そのほとんどは内水浸水被害でした。この5年の間に二度床上浸水に見舞われた家屋も数多くあり、浸水被害が生じないように抜本的対策を求める声は、切実なものがあります。
山口市において、平成21年そして今年と二度も内水浸水被害が大量に生じた背景を調べますと、頻発する記録的な大雨に、雨水排水の下水路及びこれを最終的に受け入れる河川が、対応しきれていない実情が見えてきます。
先ず、雨水排水の下水路について申しますと、山口市は国の指針に基づき県が示した確率年10年の時間降雨55mmに対応する水準で、雨水排水の下水路整備を行ってきております。ところが、10年に1回の確率で発生すると見做されている時間雨量55mmを大幅に超える降雨が、 この10年の間に6回も発生しており、雨水排水のための下水路整備の水準は現行のままでいいのか、その妥当性が問われています。
さらに問題なのは、雨水排水の整備水準を見直して、雨水下水路の排水容量を拡大したとしても、河川がその下水路を通して排水された雨水を受け入れることができなければ、雨水は下水路から溢れて内水浸水被害が生じるということであります。
現に、今年の夏の大雨で山口市の湯田地区、吉敷地区は併せて340戸の浸水被害が生じ、その内85戸は床上浸水でしたが、それは被害地域の雨水排水路が接続されている椹野川の支流である県河川前田川が、増水して水位が高くなり雨水の受け入れができなくなったためでした。
このことから明らかになって来るのは、内水浸水被害を無くするためには、下水路だけではなく河川の整備も併せて一体的に取り組まなければ抜本的な解決にならないということであります。そのためには、雨水の排水路を整備する下水道事業は市町の事業であり、 市町が整備した下水路の雨水は、ほとんどが県河川へ排水されることから、県と市町が連携し一体的に内水浸水被害対策には取り組む必要があることを強く訴えたいと思います。
そこで、これからは県も内水浸水被害を解消するという治水上の政策課題を市町と共有して、県河川の整備を行っていくべきであり、県の河川整備の方針及び計画は、そういった問題意識、課題意識に立ったものにすべきだと考えます。
県は、現在主要河川については、河川整備の長期的将来像を示す河川整備基本方針と当面する20年ないし30年間に行う整備事業と達成すべき整備水準を具体的に示した河川整備計画を策定して河川整備を進めていますが、 こうした現行の河川整備基本方針および河川整備計画は、内水浸水被害の解消という視点からも、その妥当性を点検する必要があるのではないでしょうか。
県は、平成21年、22年の豪雨災害を受けて、平成22年8月に「局地的な集中豪雨に対応した治水対策検討委員会」を設置しました。この検討委員会は、翌年の平成23年8月に、 検討結果を提言書としてまとめ報告しております。それによりますと検討委は、県下主要10河川について、現行の河川整備基本方針や河川整備計画を検証して、河川整備基本方針については10河川全て妥当とし、 河川整備計画については椹野川を含む6河川の現行計画は、妥当である旨の判断を示しています。
はっきり言ってこの検討委の提言書は、河川の氾濫、洪水という外水による浸水被害の発生を予防し、軽減するという視点からのものであって、内水による浸水被害への対応という視点が欠けています。
そういう検討結果になった理由が、もし内水浸水被害は市町が行なう下水道事業において対応すべきものであって、県の責任範囲ではないとの考えによるものであるとしたら、そういう考えは改めなければなりません。
確かに、内水処理は下水道事業として対策が講じられるべき市町の事業であります。そして、それは単に雨水排水の下水路の整備のみならず、排水ポンプの設置あるいは雨水の流出抑制を図る調整池や浸透マス等の雨水貯留・ 浸透施設の整備なども含めて計画整備されるべき事業であります。
しかし、そうした内水処理の事業も、水系一貫して下水道計画と河川の改修計画との整合が十分図られた上で取り組まれてこそ、浸水被害が生じないように真に治水の実をあげることができるのです。そういう意味において、 内水浸水被害の解消は、市町のみならず県にとっても治水上の政策課題であることを、改めて指摘しておきたいと思います。
国土交通省も近年、河川と下水道とが体系化された総合的な雨水排水計画を策定することが、双方が一体となって地域の治水安全度の向上を図ることになり、都市部における雨水対策事業の効率的な推進が図れるということで、 総合的な都市雨水対策の策定およびそのための協議会の設置を促し、推進しております。平成23年7月末時点での、全国における協議会の設置及び計画の策定状況は、配布の参考資料の通りであります。
気象庁は、頻発する局地的な集中豪雨は、今後増えることはあっても減ることはなく、強くなる旨の見解を明らかにしており、今日このことに対応した内水も含めての総合的な治水対策が求められています。
以上申し上げましたことを踏まえ、以下4点お伺いいたします。

先ず第一点、内水浸水被害の解消を、県の治水への取り組みにおいて市町と連携し解決すべき重要な政策課題として位置づけるべきであると考えますが、ご所見をお伺いいたします。

次に第二点、河川の復旧についての質問の時に触れましたが、県は8月臨時議会において、「この度の集中豪雨も踏まえた河川整備のあり方について速やかに検討したい。」 「この度の集中豪雨も前提とすべき気象条件の一つとして整理した上で、総合的な治水対策を効率的、効果的に進める。」旨、表明しておられます。そこでお尋ねですが、ここで言われている 「河川整備のあり方の検討」には内水浸水被害解消の視点を、そして「総合的な治水対策」には、内水浸水被害対策を含めるべきであると考えますが、ご所見をお伺いいたします。

第三点、椹野川水系のように、大雨のたびに内水浸水被害が数多く発生しているところにおいては、県と市が一体となって河川と下水道が体系化された総合的な雨水排水計画を策定することが必要であり、 そのための県市合同の協議会を設置すべきであると考えますが、ご所見をお伺いいたします。

第四点、内水浸水被害が生じている流域における当面の緊急対策としては、関係する県河川の浚渫をしっかり行ない、大雨時の増水による水位上昇の抑制を図る必要があると考えますが、ご所見をお伺いいたします。

(3)被災地の復興について
被災地の復興については、要望とさせていただきます。
この度の大雨災害で被災地になったところは、もともと過疎化、高齢化が進んでいた地域であります。よって、たとえ災害からの復旧がなされたとしても、その傾向が一層進むのではないかと懸念されています。
そこで、そういうことにならないよう、むしろこの度の災害を、「禍を転じて福と為す」契機にすることができるよう、被災地の復旧後の新たな地域づくり、そういう意味での復興への取り組みを、県もしっかり支援されますよう強く要望いたします。

【回答】◎知事(山本繁太郎君)
合志議員の御質問にお答えいたします。
まず、河川復旧についてのお尋ねのうち、復旧方針についてであります。
このたびの豪雨により、阿武川、田万川、須佐川の三水系におきましては、宅地や農地への浸水、河川施設や橋梁の流出など、広範囲にわたる極めて甚大な被害が発生いたしました。
このような状況に鑑み、私は、これら三水系において、お示しのように、将来、今回と同様の大雨が降ったとしても、再びこのような災害を発生させないとの方針のもと、被災時に実際に流れた水量を安全に流すことのできる河川とするための抜本的な改良整備を、早期に進めることといたしました。
このため、各水系に係る具体的な改修計画について、国との協議を進めてきたところでありまして、このたびその協議をおおむね調えることができたことから、当該計画に基づく災害関連事業や広域河川改修事業等に着手することとしたところであります。
次に、阿武川の鍋倉地域の改良整備についてであります。
鍋倉地域につきましても、お示しのように、極めて甚大な被害が発生したことを踏まえ、私は、再度災害防止を図る観点から、当該地域の抜本的な河川改良を行うことといたしました。
改良に当たっては、今回の被害は、流下能力を超える水量や河川の蛇行に起因していることから、現在、流下能力を確保しつつ、蛇行そのものを解消するバイパス案などを検討しているところでありまして、国や学識経験者の意見も参考にしながら、最適な手法で整備を進めてまいります。
私は、被災された方々が一刻も早く、安心して暮らせるように、三水系の早期復旧に全力で取り組んでまいります。

【回答】◎土木建築部長(小口浩君)
内水浸水被害対策についての数点のお尋ねです。
まず、内水浸水被害の解消の位置づけ及び県市合同の協議会の設置についてのお尋ねにまとめてお答えいたします。
内水浸水被害は、下水道自体の流下能力不足や、河川の水位が高いことによる排水不良、あるいはこれらの複合により発生しております。
このため、県としては、その解消は、下水道管理者である市町との適切な役割分担のもと連携して解決すべき、治水上の課題の一つと位置づけており、これまでも、河川と下水道それぞれの管理者が直接情報を持ち寄り、浸水被害の実態や原因の把握と共有、双方の目標流量や事業実施時期に係る協議など、整合の図られた一体的な取り組みに必要な各般の調整を行っているところです。
このことから、改めて協議会を設置することは考えておりませんが、引き続き、内水浸水被害対策が円滑に進むよう、市町との緊密な連携に努めてまいります。
次に、河川整備のあり方の検討には、内水浸水被害解消の視点を、総合的な治水対策には、内水浸水被害対策を含めるべきではないかとのお尋ねです。
まず、河川整備のあり方の検討としては、現行の河川整備計画の妥当性等を検証することとしておりますが、県では、計画の策定に当たっては、従前から内水浸水被害解消の視点も含め、背後の土地利用、取水堰などの横断工作物の設置高さ等を考慮した上で、洪水時の河川の水位を可能な限り低く設定してきたところであり、今後とも、その考え方で検討してまいります。
また、総合的な治水対策としては、集中豪雨による浸水被害の軽減を図るため、内水浸水被害対策も含めた河川整備計画に基づくハード事業や、住民の避難に資する情報提供などのソフト事業の両面にわたる対策を組み合わせて進めてまいります。
最後に、河川のしゅんせつをしっかり行う必要があるのではないかとのお尋ねです。
しゅんせつについては、河川の流下能力を向上させるとともに、お示しのように、水位上昇を抑制し、内水浸水被害を軽減させる効果も期待できることから、被害の発生状況や事業効果を勘案しながら、計画的に進めてまいります。

2013年9月30日