令和4年2月定例県議会【2.上関原発建設計画の変更】

県づくりの基本的方向について

2.上関原発建設計画の変更

上関原子力発電所の建設は、その必要性が国のエネルギー政策において薄れており、建設の可能性は将来的にないことを認めて、それに替わる発電所建設への計画変更を図ることが、原子力発電所建設計画に賛同し受け入れて国のエネルギー政策に協力してきた上関町に対して、国や県がとるべき誠意ある態度であると考えます。

国が描く電力に関するエネルギー政策の長期ストーリイが見えてきました。今日、エネルギー政策は、電力分野においても脱炭素化を図りつつ安定供給を実現していくことが求められています。この課題に応えるこれまでのシナリオは、再生可能エネルギーと原発のセットでした。それが現在、再生可能エネルギーとCO2を排出しないカーボンフリー火力発電とのセットという方向へのシナリオ変更が図られています。

その新たなシナリオに基づく長期ストーリイは、次の通りです。その1は、再生可能エネルギーによる発電の拡大を推進し、主力電源にしていく。その2は、CO2を排出しないカーボンフリー火力発電の社会的実装を進めていく。その3は、再生可能エネルギーとカーボンフリー火力発電により必要な電力が安定的に確保できるようになるまでの間、原子力発電は、補完的且つ過渡的な役割を担うベースロード電源として活用する。その4は.原子力発電は、既設の原子炉の稼働で対応できるので、原発の新増設やリプレース(建て替え)は、行わない。以上です。

このストーリイは、昨年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画(以下、略称6次エネ計画)」や、国が現在進めているエネルギー政策などから見えてくるものでして、以下そのことに関し述べていきたいと思います。

先ずストーリイその1、再生可能エネルギーの主力電源化についてであります。このことに関しては、6次エネ計画は、「再生可能エネルギーについては、主力電源として最優先の原則の下で最大限の導入に取り組む。」との方針を明記し、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス等の再生可能エネルギーが、2050年の発電量で占める割合を、参考値ということではありますが、約50~60%としています。

次にストーリイその2、CO2を排出しないカーボンフリー火力発電の社会的実装についであります。再生可能エネルギーによる発電は、天候に左右されやすく出力変動が大きいので調整電源且つベースロード電源としてこれをバックアップし電力の安定供給を実現しているのが火力発電ですが、CO2の排出量が多いのが問題でした。この問題の解決なくして2050年カーボンニュートラルの実現はあり得ません。そこで現在、我が国では、CO2を出さないカーボンフリーの火力発電所の開発とその社会的実装に向けて、二通りの取り組みが進められています。一つは、燃焼してもCO2を出さない水素・アンモニアを燃料として活用した火力発電への取り組みです。もう一つは、CO2回収装置を付設した高効率石炭火力発電への取り組みです。

前者の取り組みとしては、東京電力と中部電力との折半出資会社で日本最大の火力発電会社である株式会社JERA(ジェラ)が、昨年8月から愛知県の碧南火力発電所で始めているアンモニアの燃焼試験があります。この試験は、粉状の石炭にアンモニアを混ぜて燃やす実証試験で、少量のアンモニア混焼から始めて、3年後には20%混焼を実現し、2040年代にはアンモニア100%の発電を目指しています。こうしたJERAの火力発電ゼロ・エミッション化を目指すカーボンニュートラルへの取り組みが、菅総理の就任後最初の所信表明演説における「2050年カーボンニュートラル宣言」を、リアルティあるものにしました。

後者の取り組みとしては、中国電力と電源開発が折半出資で設立した大崎クールジェン株式会社のプロジェクトがあります。これは、瀬戸内海に浮かぶ島(広島県大崎上島町)で行われているもので、石炭火力の発電効率をガス化と複合発電により究極まで高めると同時に、排出されるCO2は分離・回収してCO2の排出実質ゼロを実現しようとするものです。複合発電は二通りありましてガスタービンと蒸気タービンによる複合発電がIGCC、それに更に燃料電池を組み合わせた複合発電がIGFCです。平成28年3月から始まった実証試験は3段階ありまして第1段階では、IGCCの発電効率の向上、設備の耐久性、設備費を含む発電コストなどのすべての目標をクリア、第2段階では、IGCCの90%以上のCO2分離・回収に成功、そして、本年3月から第⒊段階に移り、IGFC実装に向けた実証実験は今年度中に完了する予定です。加えて大崎クールジェンでは、分離・回収したCO2をコンクリート素材や燃料などに再利用するカーボンリサイクル(CCUS)の技術確立に向けたプロジェクトが、2025年3月までを事業期間として進められています。

以上のようなカーボンフリー火力発電の実証試験の成果を踏まえ、今後は、カーボンフリー火力発電の実用化とその社会的実装が確実に進んでいくものと思われます。

次に、ストーリイその3、原子力発電は、補完的、過渡的なものになるについてです。これまでCO2を出さないで安定的に電力を供給する発電施設として重要視されていたのが原発でしたが、そのことはカーボンフリー火力発電においても可能になりますので、カーボンフリー火力発電の社会的実装が進んでいけば、原発の役割は、自ずと補完的、過渡的なものとなり、その必要性は次第に薄れていくことになると思われます。

このことは6次エネ計画が、2050年の電源構成見通しにおいて原子力単独の比率を示していないことからも窺えます。6次エネ計画で注目すべきは、電源構成に初めて水素・アンモニア発電が取り上げられたことです。水素・アンモニア発電は、CO2を出さないカーボンフリー火力発電でJERAがその実用化に向けて実証試験に取り組んでいることは先に紹介しましたが、その水素・アンモニア発電の電源構成比率が、2030年は1%程度とされ、2050年は参考値ということではありますが10%程度と想定されています。それに奇妙と思われますが、原子力とCO2回収型火力発電即ちカーボンフリー火力発電を一括りにして2050年におけるその電源構成を30~40%としています。こうしたことから、何が読み取れるのでしょうか。

私は、福島原発事故以後も電源のベストミックスということで「原子力発電は、電源構成比率において20~22%を将来にわたって確保していく。」とされていたエネルギー政策の基本方針の転換があったと見ています。水素・アンモニア発電やCO2回収型高効率石炭ガス化複合発電などの社会的実装を進めていくことで、敢えて未だ国民の反対が根強くある原発の新増設はなくとも、電力の安定供給と2050年カーボンニュートラルは実現できるとの判断のもと6次エネ計画は策定されたものと考えられます。原子力からカーボンフリー火力の方向へ舵を切ったことを象徴的に示しているのが、2050年における水素・アンモニア発電の電源比率10%であり、原子力の電源比率が単独で示されずカーボンフリー火力と一括りで30~40%とされたことであります。

そしてストーリイ4、原発の新増設・リプレースは、行わないについてです。このことは、ストーリイ3からも明らかなことです。国は、2050年カーボンニュートラルに向けて必要な原子力発電は、既設の原発で対応できると判断しているものと考えられます。このことは、昨年10月の6次エネ計画の策定に際して萩生田経済産業大臣が、「現時点で原子力発電所の新増設・リプレースは想定していない。」との考えを表明し、従来の政府方針を踏襲する姿勢を明確にしたことからも明らかです。2050年カーボンニュートラルの実現に既設の原発だけではなく新設の原発も必要というのであれば、新しい原発の建設・稼働には少なくとも30年前後の歳月を要することから、現時点において原発の新増設の方針を打ち出し着手しておかなければなりません。そのことを経済産業大臣が否定したことからも、国は2050年カーボンニュートラルを、原発の新増設なしに実現していくとの方針を確定していることが伺われます。それなら、2050年以降に原発の新増設があるのかということですが、カーボンニュートラルと電力の安定供給が、基本的に再生可能エネルギーとカーボンフリー火力で実現できるのであれが、その先にも原発の新増設はあり得ないのではないでしょうか。緩慢な退場、これが将来的に原発が辿る道であろうと思われます。尚、中国電力の島根3号機は建設が完成しており、既設の原発と見做していいと考えています。

以上、縷々申し上げてまいりましたが、その目的はただ一つ、上関原発の建設は、将来にわたってないという事実をわかってもらうためです。そして、原発の受け入れで町の振興を図ろうとしてきた上関町に、原発に替わる発電施設の誘致が実現するよう上関原発建設計画の変更に、県が主導して取り組むべきことを訴えるためであります。では、原発に替わる発電施設は何でしょうか。私は、それは大崎クールジェンプロジェクトで取り組まれているCO2回収型で高効率の石炭ガス化複合発電所であると考えます。

カーボンフリーの火力発電は、水素・アンモニア発電という方向もありますが、本県の場合、中国電力が取り組んでいる大崎クールジェンプロジェクトの成果であるCO2回収型のIGCC若しくはIGFCを導入する方向が妥当であることは言うまでもありません。

以上の理由から、上関原子力発電所の建設計画は、CO2回収型の石炭ガス化複合発電所(IGCC)若しくは石炭ガス化燃料電池複合発電所(IGFC)の建設計画に変更することを提案します。ついては、この上関原発建設計画の変更につき、県が主導的役割を果たすことを期待するものですが、ご所見をお伺いいたします。

私の質問は以上ですが、この度の質問は、国の総合資源エネルギー調査会の委員である橘川武郎教授(国際大学大学院)からの教示や発表しておられる見解に負うところが多いことを申し添えておきます。

→(理事答弁